「付き合おう」という明確な言葉はなかったが、互いに連絡を取り合って会うのが当たり前になっていった。やがて互いに好意を口にするようになり、恋人同士となった。
富士子さん23歳、ジャックさん21歳のことだ。
携帯電話が普及する前の時代。電話で話すときは、自宅の固定電話を使っていた。富士子さんは固定電話のコードを伸ばして自分の部屋に持ち込み、ジャックさんと電話していた。家族は富士子さんに恋人がいるかもしれないと思ってはいたが、相手が誰なのかまでは知らなかった。
年下の外国人留学生の恋人の存在を、富士子さんは家族にひた隠しにしていた。
親には秘密の「外国人の恋人」、ふりがな付きの手紙
付き合う中で感じた文化の違いについて聞くと、二人は笑いながらエピソードを教えてくれた。
留学生で経済的にゆとりがなかったジャックさんが、富士子さんとのデートの際に、花束を準備したときのことだ。「喜んでくれるかな」と思いながら渡したら、富士子さんは怒って花束を公園のゴミ箱に捨ててしまったという。
その理由は、仏花として売られていた花束だったからだ。ジャックさんはかわいい花束だと思ってプレゼントしたのだが、年頃の富士子さんには、デリカシーがないものに思えた。
こんな違いもあった。二人でラーメン屋に行くと、富士子さんのほうが必ず先に完食する。タイは猫舌の人が多いそうで、現地のお店で出てくる麺類は日本ほど高温ではなく、ぬるい温度だ。そのため、熱々のうちにラーメンを食べきることが難しい。麺をすする文化もなく、ジャックさんは音を立てずにもぐもぐと食べていたそうだ。
しかし、仏花の一件をのぞけば、文化の違いによって喧嘩になるような場面はなかったという。
「ジャックさんは前向きで明るいので、文化の違いで険悪になったことはないですね。私が作った和食も『おいしい、おいしい』とよく食べてくれたし、外国人で苦手な人が多い納豆にもネギを入れるなど、アレンジして食べています」


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