当時「大きな政府」の財政赤字や運営体制は問題視され、民営化が推奨された。本書で事例として挙げられる住宅、医療、ナーシングや通信サービス、水道、さらには刑務所や大学教育の領域も、そもそも営利追求にそぐわないがゆえの公的領域であった。
しかし政府は業務を民間に外注するようになり、安定したキャッシュフローや支援を与えてきた。
一方、これらの公的サービスの受益者らには無論、運営に口出しする権利はなかった。経営状態が悪いという理由で急な値上げやサービスの質の低下が生じても、いみじくも刑務所の事例にあるとおり、かれらはただ耐えるだけのとらわれの立場だったのである。
PEはこれを活用し、資金の流れの安定感と政府による支援を、ビジネスモデルの軸とするようになる。非営利の営みを貧困と名指しし、さらに劣悪な貧困状態へと落とし込むという、絵に描いたような貧困ビジネスが、PEの核心となったのである。
法と経済学という文脈
やはり、と言わざるをえないのだが、80年初頭にレーガン政権が規制緩和、金融市場拡大の新自由主義政策を打ち出してPEの原型たるジャンクボンドやレバレッジド・バイアウトが増大する少し前の70年代に、一定の経済学者たちが方向性変更の舵取りをしたという事実がある。
それは本書第1部第5章、Covid-19のパンデミックなど近年PEに買収された医療現場の医師らの葛藤を描いた後に、本来はクレイトン法第7条が禁じた企業買収としてそこに注力すべき司法省や連邦取引委員会が、なぜそうしてこなかったのかという文脈で述べられる。
バルーによれば、最も影響力があったのはロバート・ボークの著書『反トラスト法のパラドックス』(1978年)であり、シカゴ大学のR. ポズナーやF. イースターブルック、ハーバード大学のD. ターナーらもほぼ同調したそうだ。
ボーク自身はニクソン時代のアメリカ訟務長官であり、レーガン大統領に推挙されたり、その後連邦高等裁判所裁判官も務めたりという法学者だが、シカゴ大学での師がハイエクやフリードマンと近しく、同大を拠点に「法と経済学」という分野を促進した人物で、反トラスト法研究のプロジェクトを率いていた。


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