この考え方を、本書ではMVPPと呼んでいます。Minimum Viable Process and Product、訳せば最小限の実用性を持ったプロセスとプロダクトです。強調したいのは、プロダクトよりもプロセスのほうです。
スタートアップの世界では、最小限の製品をまず市場に出して反応を見ながら改善するという文脈で、MVP(実用最小限製品)という言葉が使われます。しかしAIプロジェクトでは、プロダクトを考えるだけでは足りません。AIの出力は本質的に確率的であり、モデル単体、あるいはアプリケーション単体では価値が完結しないからです。AIが出力した判断結果を誰が受け取り、どう確認し、間違いをどう修正し、その結果をどう次の処理へつなげるのか。こうした一連の業務プロセスまで含めて検討して初めて、AIはビジネスの中で機能します。
つまり、AIプロジェクトで本当に作るべきは、AIモデルそのものでも、AIを載せたアプリケーションそのものでもなく、AIを含んだ新しい業務プロセスなのです。AIモデルはその中の重要なパーツではありますが、あくまで構成要素の1つにすぎません。
この発想を持つと、評価軸が変わります。まず問うべきは「このAIモデルはどれくらい賢いか」ではなく、「このAIモデルを組み込んだ一連の仕事は、最小限でも価値を生んでいるか」になります。
MVPPのM、すなわちMinimumの意味も、一般的なMVPとは少し異なります。それは、ビジョンに照らしたときに必要な事業成果の、最低限の到達ラインです。できる限り低い水準で始めることではなく、現時点の到達限界の中で最も賢い使い方を設計することを指します。同じAIモデルでも、全工程に一律で適用するか、精度がとくに高いユースケースに絞って適用するかで、出せる事業インパクトは大きく変わるからです。
「最適解」ではなく「納得解」を探す
ここでポイントになるのが、「最適解」ではなく「納得解」という発想です。MVPPとして設定すべきは完全な正解ではなく、現在の制約条件の中で関係者全員が合意できる、一時的な均衡点です。それを成立させるには、少なくとも3つの合意条件を満たしている必要があります。


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