また、現在の日本酒は、日本醸造協会が純粋培養した「協会酵母」を使った酒造りが一般的だ。けれど義大さんは、その方法にも疑問を投げかける。
「協会酵母を使えば安定して発酵が進みます。しかし、全国どの蔵でも同じ協会酵母を使って醸すなら、どこでも同じような酒になる。もともと蔵にはその蔵だけの酵母が付いていて、昔の人はその酵母で酒を醸していました。藤井酒造の蔵には、1907年(明治40年)の第一回全国清酒品評会で日本一になった酒を造った酵母が付いています。その蔵に、わざわざ外部から別の酵母を持ってくる必要があるでしょうか」
「昔に戻る」ために「科学」を使う
醸造をする2階と、瓶詰めや保管をする1階を、義大さんは「天界と下界」にたとえる。
「下界は近代設備でもいい。けれども天界は人が触ってはいけない、聖域だと感じています。できるだけプラスチックのような人工物を使わず、自然物を中心にして、蔵の微生物の生態系を保っています」
しかし、ただ昔の手法を守るだけでは、現代の市場に響かない。義大さんは、生酛造りの割合を7割にまで増やしていた2022年、「龍勢Lab.」を立ち上げ、醸造実験を始めた。
最初に手掛けたのは「藤井酒造の蔵付き酵母」の単離だ。
義大さんは、蔵のなかのさまざまなところから酵母を集めた。木桶や樽、神棚や柱などを綿棒でこすって採取した149株の酵母の中には、酒造りに適したものはなかった。一方、協会酵母をまったく加えずに造った酒母から、89株の酵母が採れた。協会酵母の遺伝子が含まれていないことを確認したうえで、発酵試験を行う。アルコール生成能力の高い酵母が24株見つかり、そのうち9株には胞子を作る能力があった。
続いて、この9株で酒を醸し、実際に飲んで確かめた。その結果、酒造りに適していると判断されたものは2株。こうして得られた「蔵付き酵母」は、純粋培養して保存してある。
「酒造りを左右するのは『菌の数』です。酵母が多ければ発酵が進む。雑菌が増えれば腐ってしまう。協会酵母を加えれば発酵は安定しますが、活発に増殖する協会酵母の陰で、蔵付き酵母の数は減っていきます。蔵付き酵母だけで発酵できるようにするには、まず蔵付き酵母の数そのものを増やす必要があるのです」(義大さん)


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