だが、藤井酒造の受難はそれだけでは終わらなかった。2020年からの新型コロナウイルスの流行により、売り上げが落ち込んでいた2021年7月、再び大雨によって蔵が浸水した。水位は以前よりさらに高かったが、幸い水はすぐに抜けた。それでも、コロナの影響で在庫を多く抱えていたため、廃棄した酒は1万本に及んだ。
このときも被害状況だけ発信したところ、全国から次々と連絡が入った。飲食店や酒蔵、酒販店、近所の人たち、そして熱心なファンなど、50人が駆けつけた。客からの募金を送ってくれる飲食店もあった。
藤井酒造の店舗「酒蔵交流館」スタッフの岡本由香さんは振り返る。
「5代目は『さすがに二度目になると手慣れてるね』と明るく声をかけながら、片付けを進めていました。
『水に浸かったお酒を買わせてほしい、中に水が入っていないなら気にしない』と言ってくださる方もたくさんおられました。もちろん、泥水に浸かったお酒を売ることはできません。でも、本当にたくさんの方が応援してくださって、ありがたく思いました」
二度とも、龍勢は棚から消えなかった。全国から人が集まり、二度目は前回の半分の期間で復旧できたからだ。銘柄を守ったのは、蔵の外にいる人たちだった。
浸水、コロナ、また浸水と、立て続けの災難に、心が折れても不思議ではない。でも、藤井酒造はへこたれなかった。義大さんは言う。
「酒蔵の2階にはまったく被害がなく、蔵付き酵母も無事でした。藤井酒造の酒を待ってくださる方が大勢いることもわかりました。だから、また酒を造る。それだけです」
蔵付き酵母。義大さんが、二度の被災を挟んで守り抜こうとしていたものだ。
「全量生酛造り」「蔵付き酵母」の酒を
生酛造りは日本酒全体の約2%しかない、昔ながらの製法だ。手間と時間がかかる分、自然の乳酸菌が複雑な風味を生む。2020年時点で藤井酒造の生酛比率は約1割。義大さんはこれを100%にすると決めた。
「目に見えない微生物を相手に、昔の人たちは何百年も酒を造り続けてきました。やり方さえ間違えなければ、旨い酒は造れるはずです」と、義大さんは言う。


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