――なぜ紙をやめる決断をしたのでしょうか。
誤解がないように、最初に説明しておきたいのは、ダイヤモンド社全体のことです。うちは規模の大きな会社ではありませんが、事業が多岐にわたっており、小さなコングロマリットのようなところがあります。例えばHRソリューション事業室があり、そこでは適性検査などの人材開発・組織開発事業を行っています。そして書籍事業があります。メジャーリーガー級の編集者たちが集まっており、紙の流通をベースとした世界で頑張っているわけです。
「紙をやめる」という判断をしたのは『週刊ダイヤモンド』なので、ご質問への回答はメディア事業、その中でも経済ジャーナリズムに限ったお話になります。
――比率として、いちばん大きいのは書籍事業ですね?
それは間違いありません。ただ20~30年前に遡れば雑誌事業のほうが大きかった時期もあったわけで、それぞれ山あり谷ありです。
「誰に情報を届けるのか」を考え抜いた
話を元に戻すと、2018年の秋に、私が出戻りでロイターからおよそ8年ぶりにダイヤモンド社へ戻ってきたところから始まります。戻ってきてこの会社の内実を知り、そこから改革をしていきました。経済ジャーナリズムの事業変革をしてほしいと言われて戻ってきたので、まず取り組んだのは、「私たちの読者は誰なのか」を明確にすることでした。
経路はデジタルか紙か、手段は動画かテキストかといった議論をするのではなく、自分たちの存在意義について突き詰めました。その結果、当時の現場の幹部たちは経済ジャーナリズムを続けていきたい、と。企業や産業の人たちにとって、時には厳しい、批評的な記事を書いたとしても、基本的には社会にプラスのインパクトを与えたい、ということで一致しました。そうであれば一番いい経路、手段は何か。こう考えた結果、サブスクを伸ばしていくことを決めました。途中は省略しますが、その延長線で今回、紙の『週刊ダイヤモンド』の発行をやめることになりました。
普通の会社であれば何年か待ってから実施するかもしれませんが、うちはスピーディーにやっていく会社です。読者やステークホルダーなどにご迷惑をおかけするところも多々ありますが、決めたことを迅速に進めていきます。
――2018年に「私たちの読者は誰なのか」を明確にすることから始めたとのことですが、この時に読者調査はやりましたか。調査と検討に時間を掛ける会社もあります。
読者に対してそれをやるのは、ちょっと違いますよね。既存の読者が何をやってほしいかを知るより、まずは自分たちが何をやりたいのかを決めなくてはいけない。むしろ私がよく話をしたのは現場です。山口(圭介編集長、当時。現メディア編集局長)など編集部の人間と議論を続けました。
2018年時点では役員として戻ってきたわけではないので、この会社を守ってきた役員や先輩にも話を聞きました。どの人たちをオーディエンスとして設定していくか。これは勝手かもしれませんが、自分たちで決めていったのです。
自分たちが情報を届けたい相手は、現状を変えたい人、いわばチェンジリーダーです。知的好奇心が強い方々に向けて、ビジネスや経済についての最先端の情報を出していこうということです。
――経済報道のサブスクの先例では日本経済新聞があります。
日経の数字は研究しましたが、新聞とは違うのであくまで参考にした程度です。ダイヤモンドには企業・産業取材を担う記者が30人程度しかいないので、規模がまったく違います。全産業をカバーできないので、テーマごとにやっています。
ダイヤモンドは1990年代前半に英エコノミスト誌と提携していて、私はその日本語版をやっていました。あそこの組織にも、それほど多くの記者がいるわけではありません。にもかかわらず、そこから『ロングテール』『フリー』などのベストセラーを執筆したクリス・アンダーソンが出てくるのは、やっぱりテーマを持ってやっているからです。彼は1990年代にインターネットをテーマとした記事を英エコノミスト誌で書いていました。
日経はサブスクの成功事例ではありますが、やり方が違います。他社から学ぶというよりも、ゼロイチで自分たちのやり方を組み立てていきました。
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