新刊『世界のビジネスエリートを惹きつける 教養としての盆栽』を上梓した依田徹氏が、盆栽鑑賞文化のルーツと変遷について解説します。
盆栽鑑賞の文化はどこから来たのか
みなさんは、盆栽はサラリーマンの趣味という印象をお持ちかもしれない。
昭和戦後期の日本を舞台とした長谷川町子「サザエさん」や藤子・F・不二雄「ドラえもん」を見ると、東京都近郊の戸建て住宅で、おおむね中流階級の男性が盆栽を楽しみ、そして野球ボールに壊される日常が描かれている。
たしかにこの時代、盆栽はサラリーマン層に普及し、多くの人々に楽しまれていた。
しかし実はここから、少し勘違いが生じてしまっている。
盆栽はより古い時代、トップクラスの教養人の趣味として発生していたのである。
最初に盆栽を生み出したのは、関西圏の「文人」たちであった。
文人とは漢文で記された古典籍を自由に読み書きし、書画骨董鑑賞にも通じた、教養を誇る人々である。
「三樹園盆栽談」という記録によれば、江戸時代の終わり頃、兵庫県灘の酒造家に文人が集まり、「文人画」を手本にした鉢植えを賞美したのが盆栽鑑賞の始まりとされる。
この文人画というのも中国の士大夫、すなわち科挙を通過した政治的エリートの描いた絵画作品にルーツがある。
彼らは字がうまく、詩を詠み、そして絵が描けなければ、一流の人間とは見なされなかった。
しかも彼らの描く水墨画は、小手先の技術にこだわるものではなかった。
漢詩に通じる壮大な世界観、時としては飄逸味を備え、しかもその深奥に精神性を持っていることが大切であった。
その作風を敬慕したのが日本の文人画であり、盆栽はその流れにあるのである。


