日中の作業は単線を上下の電車が行き交う合間を縫って実施する。監視員が頻繁に時刻を確認しながら拡声器で「上古沢上り発車、〇分前」などと作業員に知らせる。時間が近づくと全員が手を止めて線路脇に退避。電車の通過を待ち線路の安全確認をして作業を再開、の繰り返しだ。
山岳区間ならではの特殊事情
南海電鉄の保線区は、南海線が住ノ江・泉佐野・和歌山、高野線が初芝・橋本の各エリアに職場が分かれている。高野線の橋本―極楽橋間と鋼索線(極楽橋―高野山間)を担当する橋本エリアの高野智雄担当区長は1987年の入社。南海線・高野線のさまざまな職場を経験してきたが、橋本エリアは「急カーブとトンネルが多いため、レールや金具、マクラギの損耗が早い」とほかとの違いを説明する。
保線の主要な仕事の1つに線路を歩いて点検する「徒歩巡回」がある。「平坦区間では方向に関係なく歩きますが、山岳区間では山の上のほうから下っていきます。上ると心臓がバクバクになるんで」。線路に向かって伸びた木の枝を切るためにノコギリや鎌を持っていくのもほかにはない特徴だ。
山中では野生動物との遭遇も。「いろんな動物がいてます。シカやイノシシ、タヌキはよく出てきますね。シカはレールの鉄分をなめにきているという話を聞きます」。「クマだけはまだ見たことがない」というが、クマ対策の鈴やスプレーを腰にぶらさげて警戒を強めている。
高野担当区長は「電車を止めないのが我々の仕事。もし支障が発生しても早期の復旧を目指します。若手にも自分たちの仕事が安全・安心につながっていることをやりがいに感じてもらえれば」と話す。大都会からの直通も含め、1日に何本もの列車が行き交う山の中。その運行の裏側には乗客からは見えない地道な作業がある。

