そのためには、無理に急登や危険な岩場を登る必要なんてない。日本の国土は7割近くが森林で、素晴らしい道や美しい風景はそこらじゅうにある。しかしそうした道は、今まであまり歩かれてこなかった。
わたしはそういう道を歩くことこそが登山の楽しみだと考え、「フラット登山」と名づけて提唱している。わたしがフラット登山で伝えたいことは、ただひとつである。
「とにかく気軽に、気持ち良く、楽しく歩きたい。登山なんてそれでもいいじゃないか」
必ずしも高峰に行かなくてもいい。山頂に立たなくたってかまわない。歩いて気持ち良い道だったら、平原や森の中にもたくさんある。都市郊外にも、公園をつないだり河川沿いに歩いたり、たくさんコースはある。舗装された道だって、自然と触れる登山の気分は味わえる。そういう「歩く旅」を楽しもうではないか。それが私のメッセージである。
「歩くために旅をする」という提案
ネットのなかったころは、旅行先の情報は乏しく、行ってみなければわからないこともたくさんあった。しかしインターネットの発達した現代は、事前に検索エンジンやSNSでたいていの情報は仕入れられる。実際に旅行に行くと「インスタグラムの写真で見たとおりだ」というような感想しか出てこない。「答え合わせの旅行」になってしまっているのだ。
こういう答え合わせから脱却し、イチかバチかの出合いにかけることのほうが面白く、思い出にもなりやすい。歩いている途中で見つけたなんだか旨そうな大衆食堂。新鮮な野菜が並んでいる無人の野菜販売所。いわくありげな幻想的で古びた神社。山道で出くわしたニホンカモシカ。こういうさりげない一期一会はいつまでも忘れず、良い思い出になっていく。
偶然の出合いこそが旅なのだ。そしてこういう偶然の出合いを生むためには、移動そのものを楽しまなければならない。観光地から観光地へ、観光地から宿泊施設へとジャンプするように移動しているだけでは、その途中にある素敵なものたちに出合う機会はないからだ。


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