日本から戻ってからは、状況がさらに悪化していった。産婦人科の定期検診で「安全に暮らせていますか」と尋ねられ、まゆこさんは初めて、自分の置かれた状況を医療者に話した。
つかの間の歩み寄りと、再び壊れていく日常
20年春、長男が誕生した。まゆこさんは、待望の子どもを抱き、幸福感に浸った。
カップルカウンセリングに通うなど、一時は夫も歩み寄りの姿勢を見せていた。「君が好きな花だから」とバラの花束を渡されたこともある。カウンセラーには、妻と息子を大事に思っていると話していたという。
翌年の夏、次男を出産した。
危うさをすでに感じていたはずなのに、なぜ2人目を――そう尋ねると、まゆこさんは少し考えてから答えた。
「これは私のわがままなんですけど……兄弟を作ってあげたかったんです」
夫の一時的な歩み寄りや謝罪のあとに関係が"リセット"されたように感じる――これは、心理学者レノア・ウォーカーが提唱した「暴力のサイクル理論」など、DV関係にしばしば見られるパターンだとされる。
しかし、長男が生まれてからというもの、家庭内では物が壊される出来事が度々起きるようになっていた。
ある日には、熱くなったフライパンを、子どもの服が入ったタンスに向かって投げつけられたこともある。少しものが当たっただけで、コーヒーテーブルを投げつけてテレビを破壊されたこともあった。一度、キッチンにねずみが大量発生したことがあった。新生児を抱えながら業者に相談の電話をかけると、「勝手なことをするな」と携帯電話を叩き壊された。
「もう、意味がわからなかったです……」
そう語る途中、まゆこさんは声を詰まらせた。目に浮かんだ涙をこすり、 5秒ほどの沈黙のあと「大丈夫」とだけ言って、話を続けた。


※ログイン後、コメント入力が可能です。