恐怖心を抱きながらもまゆこさんは行動を止めなかった。
福祉の仕事をしていた経験から、「DVや虐待の疑いがあるときは、第三者の目を家庭内に入れることが重要だ」と知っていた。そこで、訪問看護師と相談し、検診を名目に自宅へ来てもらうことにした。
「実際には何も問題がないので、いわば、フェイクの訪問です。けど、それも勘づかれて。看護師さんにこっそり『逃げる準備をしている』と言ってたことも聞かれてしまって……」
すると夫は、血相を変えて飛んできた。
「最終的にその場で泣かれて。私もあほやから、『そうか、じゃあもう少し頑張ろう』となってしまったんです」
ところが、まゆこさんにも我慢の限界がやってくる。
2021年11月、決意の逃避行
あれは、次男誕生の100日目、お食い初めの日だった。
まゆこさんは、「一生涯、食べることに困らないように」という意味を持つお食い初めの伝統を大切にしていた。夫は、またいつもの“ちょっとしたこと”で怒り狂った。そして、お食い初めのために準備していたものを、全部ひっくり返した。
まゆこさんの中で、何かが切れた瞬間だった。
家を飛び出した。スーツケース1個と、1歳半の長男、3カ月の次男を抱えて。
普段から相談に乗ってくれていた友人が、40分の道のりをかけて助けに来てくれた。保護シェルターは空きがなかったが、代わりにホテルを用意できると言われた。しかし、行ってみると、その「ホテル」はホームレスや薬物中毒者が滞在する宿泊先だった。
それを見た友人が、「うちにおいで」と自分の家に匿ってくれた。
「そこから2週間、友人宅にいさせてもらい、その後は友人名義でアパートを借りてくれました。週に2回ベビーシッターに来てもらいながら、その間に図書館にいって履歴書を書いて、送りまくりました。早く仕事を見つけたくて」
友人は他にもクラウドファンディングやSNSで支援を募ってくれ、当時のレートで120万円ほどの寄付が集まったという。
「彼女が声をかけてくれたおかげで、本当にたくさんの方に助けていただきました。今でも毎年この日が来ると、皆さんのおかげで今の生活があると感謝しています」
ゼロからの再出発だった。それでも、まゆこさんの表情は明るかった。
「今振り返れば、自分のことを大事にしていなかったなと思います」
そう言うとまゆこさんはまっすぐこちらを向いて、笑った。
(後編へ続きます)家を飛び出したあの日を、まゆこさんはのちに「2つ目の誕生日」と呼ぶようになる。 後編では、アメリカでシングルマザーとして、ゼロから生活を立て直していく日々を追う――。


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