スタンフォード大学のラジアーは、同じ大学の経営大学院(スタンフォードMBA)の卒業生を対象にした大規模な職歴調査を行い、およそ5000名分の回答を分析しました。そして、起業した人と組織に残った人をくらべたのです。
この論文でラジアーが打ち出したのが、いまや経済学で有名になった「何でも屋(jack-of-all-trades)」の仮説です。
先に答えをお話しすると、起業した人たちは1つの分野を極めた専門家ではなく、いろいろな分野でそこそこの経験を積んだ「バランス型」の人たちでした。MBA時代に学んだ科目もはば広く、仕事でこなした役割の数も多かったのです。
つまり、「突き抜けた1つ」より「そこそこ何個か」を持つ人のほうが、新しい価値を生み出す側に回りやすいということがデータで分かったのです。
スタンフォードのMBA卒業生というのは、本来なら「1つの分野で抜きん出た人」が集まる場所のはずです。それなのに、そこから起業する人を見ると、ずば抜けた専門家ではなく、横にはば広い経験を持つ人が多かった。
ここがラジアーの研究の意外なところでした。専門を1つにしぼった人ほど、その分野で組織に雇われる側に回りやすい。逆に専門をしぼらなかった人ほど、自分で仕事を組み立てる側に回っていたのです。
90点はなくとも、60点なら2つや3つあるはず
この発見と同じことが、才能を見つけることについても言えます。「100点満点で90点」の何かは、たしかに強力です。でも、90点を持っていない私たちにも、60点なら2つや3つはあるはずです。
たとえばあなたが「人前で話すのが60点」「文章を書くのが60点」「動画編集が60点」だったとしましょう。1つひとつだけでは、世の中の上位3%にはとても届きません。ところが、3つを組み合わせて「自分で原稿を書き、自分でしゃべり、自分で編集する個人発信者」という形にしたとたん、それを1人でこなせる人は急に少なくなります。
3つの60点をどれか1つだけ持っている人なら世界中にいくらでもいますが、3つを同時に持っている人は、ほんの一握りなのです。


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