「試合中は気づかなかったんですが、あとで録画を見直したら監督が拍手してくれてて……とても嬉しかった。大切にされてると思いました。
みんなも『(投球内容について)オッケーオッケー』と声をかけてくれました。それから少しでも試合に貢献しようと、攻守交代のときのグラブ渡しとか、バットの整理とかしていました」(朝来選手)
190センチの巨漢がベンチの中をちょこまかと雑用に動き回っている姿を想像すると微笑ましく、「ああ、この子は本当に良い選手なんだな」と思わされる。
「朝来のベンチ入りと登板はチーム全体の誇り。3年生みんながグラウンドの土を踏めて良かったですよ」
というのは、塩健一郎部長。
「うちはほんと、ファミリーなんですよ」
智弁和歌山で気になった選手がもうひとり、サードのランナーコーチをしていた背番号16の久米悠二朗選手(2年生)。一塁コーチの松本虎太郎主将とともに、好守交代時に自チームの野手が守りやすいようにグラウンドの土を手でならす姿がSNSで話題になった。
「君の姿、ネットで話題になっているよ。知ってる?」と久米選手に伝えると、「うっすら知ってます」と笑った。
「グラウンドをならすように監督から言われています。過去にイレギュラーヒットで決まった試合があって、やはりグラウンドコンディションも重要なことだから。手でならすのは監督から『イレギュラーしないように気持ち込めてやれ』と言われているから(笑)」(久米選手)
グラウンドにかがんで地面をならす
グラウンドにかがんで地面をならす姿は、私にはかつて智弁和歌山のグラウンドでそうやってならしていた高嶋仁前監督の姿とかぶる。高嶋さんは授業の休憩時間など合間をみては、グラウンドをならしていた。
「こうやって私が整備しといたら、選手がきたらすぐ練習に入れるやないですか」
高校時代の中谷さんは、廊下の窓からふと高嶋さんのその姿を見て、「俺らはただこの人についていったらええんや」と決意を固めたという。智弁和歌山が野球ではまだ無名で、強豪校に練習試合を断られていた時代の話である。
一方の健大高崎(群馬)も、部屋割りは自分たちで決める、食事・入浴の順番は上級生・下級生関係なし、9時半までの門限までは外出自由という「自由すぎる寮生活」と話題になった。
毎年のように高校野球部の暴力事件がニュースになる。今年も名門校であった。だが軍隊のような規律、暴力をともなった「指導」で人は鍛えられるというのは、もはや過去の妄想でしかない。
両校のようにグラウンドでは厳しい練習でも、いったん離れればお互いを尊重し合い、助け合うチームが決勝で好勝負を披露したことは、これからの野球指導について大きな示唆を与えてくれた。
(ライター・神田 憲行)

