「『やります』と言われても、本当にできるのか?」
2025年に入って間もないころ、ネット広告を展開する企業の社内では、首脳級から現場までが「ある懸案」にざわめき立っていた。
事の発端を作ったのは、通信からEC、金融まで幅広い経済圏を持つ楽天グループ。ネット広告の主要なクライアント領域を牽引する大口中の大口顧客が、広告運用の大規模な「内製化」に走るという方針を打ち出したのだ。
従前から、「楽天グループとLINEヤフーの2社が広告にどれだけの予算をかけるかは、うちのみならず、市場全体へのインパクトが大きい」(ネット広告代理店の社員)というほどの存在だった同社。その内製化による影響は、時間を置かずに現実のものとなる。
25年8月に発表された、大手ネット広告代理店・サイバーエージェントの25年4~6月期決算。同社のインターネット広告事業は、「大型顧客の離脱」により、約5年ぶりとなる四半期ベースでの減収(前年同期比)に陥った。
時を同じくして、同業のセプテーニ・ホールディングスなど、複数のネット広告関連企業の決算で、同様の理由による押し下げインパクトが発生。この「大型顧客」の正体こそが、楽天グループだった。
楽天の宣言に当初は懐疑的だった理由
ネット広告業界において内製化というキーワード自体は、決して目新しいものではない。広告・マーケティングなどの「外注費」を縮減するといった誘因は大きく、過去にもリクルートをはじめとするデジタル領域に強い企業群が、程度の差こそあれど、内製化に挑戦してきた歴史がある。
もっとも、その道のりは平坦ではない。サイバーエージェントの内藤貴仁常務は「この25年、内製化しては代理店に戻すという繰り返しをたくさん見てきた」と振り返る。広告関連の技術が目まぐるしいペースで進歩する中、内製化を模索した先で、プロであるエージェンシーに泣きつく企業は後を絶たなかった。
過去のこうした経緯があったからこそ、楽天の内製化方針が代理店各社に伝わってきた際も、業界内には冒頭のように懐疑的な空気が漂っていた。
ところが、現実は違った。楽天グループは国内有数のIT企業であり、「マーケティングへのリテラシーが高い」(ある広告代理店の首脳)。同時に、複数の業界幹部によれば、広告運用の内製化は「(三木谷浩史社長からの)トップダウンの案件」とみられるという。同社は宣言通り内製化へと振り切り、各社との契約を次々と解消していった。
もともと広告業界では、ここ数年のAIの急速な進化を受けて、広告運用の大規模な内製化が加速する可能性も一部で懸念されていた。それでは、業界トップたちは今、楽天を皮切りとする「内製化ドミノ」に震え上がっているのかというと、実はそうでもない。
多くの業界関係者の間では、楽天のケースはあくまで“特殊事例”とみる向きが多い。一方で広告各社のトップたちが見据えているのは、100あった広告予算のうち、“現実的に可能な内製化”が何割か浸透する、内製化と代理店をハイブリッドさせた時代の到来だ。
楽天ショックの正体は「大きな特殊事案」だったのかもしれない。しかし、旧態依然とした「運用代行」からの脱皮を促す号砲は、とうの昔に鳴っている。各社の優勝劣敗を分けるのは何なのか。首脳陣への取材を通じて見えてきた未来は、「すべてできる会社」か、「顕著な付加価値がある会社」でなければ勝ち残れない、熾烈な広告サバイバルの幕開けだ。


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