奥田氏が会長を退いた06年3月期、トヨタの当期純利益は過去最高の1兆3721億円に達し、配当は前年の65円から90円へ引き上げられ、7期連続の増配となった。それでも2人にとって株主還元は「強い会社」を作った結果としてついてくるものであり、経営の主軸ではなかった。
ROE(自己資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)など、資本コストを上回る収益性を強く求める今のコーポレートガバナンスとは、重視している基準そのものが異なり、当時は資本効率がこれほど経営課題の前面に出ていたわけではない。
もっとも、専門経営者に求められる資質は、特定の経営思想に収まるものではない。社外取締役の増加や、投資先企業との対話を通じて、中長期的な企業価値の向上を促す「スチュワードシップ・コード」の導入など、この四半世紀でコーポレートガバナンスは大きく変化した。
経営者には、株主・従業員・取引先など、さまざまな相手に対して、以前よりきちんと説明する責任が求められるようになった。奥田氏や坂根氏が現場に根差して培った経営判断力を、こうした環境の中でいかに次世代へ受け継いでいくか。それが、今後のトヨタやコマツに問われる課題となる。
日本企業はいかなるリーダーを育てるべきか
今日、日本企業の経営者育成は大きな変容を遂げつつある。かつての新卒一括採用と終身雇用を前提とした社内育成から、中途採用や外部招聘を交えた流動的な人材登用へと軸足が移る中、社内での泥くさい修羅場を通じて生え抜きを育てる従来のメカニズムは成立しにくくなった。
奥田氏や坂根氏のような経営者がこれからも次々と現れるとは限らない。彼らがどのような場面で鍛えられ、どのような経験を積んできたのかは、日本企業がリーダーをどう育てるかを考えるうえで参考になる。
かつて、リーダーシップ研究は、リーダー個人の資質に注目する「特性論」を中心に発展し、その後、行動や状況、さらにはフォロワーとの関係性へと研究対象を広げてきた。近年は、とりわけ信頼関係や共感、組織との関係性を重視する傾向が強い。
声や話し方だけでリーダーシップを論じることが難しいのは当然だろう。だが、数々の名経営者に直接インタビューしてきた筆者の経験からすれば、声と話し方は決して軽視できない。声の質や話す間(ま)、強弱、言葉の運び方には、その人の自信や気迫、知性、人柄までがにじみ出るからだ。


※ログイン後、コメント入力が可能です。