さらに、別のクリニックでは、縫合手術をあえて途中で止め、「傷口が開いたままの状態で患者を一度帰宅させ、翌日になってから再度呼び出して縫合する」という信じがたいマニュアルが実行されていた。
これは、診療所が保険会社に対して「2日分の手術料」を水増し請求し、より多くの資金を回収するための、PEファーム主導の姑息な手口だった。
救急外来の「コードブルー」に対応できる医師が誰もいなくなる恐怖
特に深刻な崩壊を見せているのが、一分一秒を争う「救急外来(ER)」の現場である。
PEファームのKKRが買収した「エンビジョン」や、ブラックストーンが買収した「チームヘルス」といった巨大医師派遣会社は、全米の総合病院の救急外来の人員配置権を事実上独占(ロールアップ)していった。
カンザス州の病院で救急外来の責任者を務めていたレイモンド・ブロヴォント医師は、PE傘下に入った直後から、現場が「殺人的な人手不足」に陥ったと証言している。
広大な救急外来を、当直医が「たった1人」で回さねばならないシフトが常態化したのだ。
そんな中、院内で「コードブルー(患者の心肺停止)」が発生すると、唯一の当直救急医がその場を離れて蘇生対応に向かわねばならない。それはすなわち、「救急外来に医師が文字通り一人もいなくなる時間帯」が日常的に発生することを意味していた。
ブロヴォント医師は、この危険な体制が医学的基準や法律に違反していると強く抗議した。しかし、派遣会社の幹部から送られてきたメールの返答は、背筋が凍るほど冷酷だった。
「人員配置の決定の多くは、金銭的な動機に基づくものです。会社の利益は、皆さんにとっても最善の利益なのです。異論を外部に公表することは控えてください」
患者の安全ではなく、投資家への利益提供だけが医療の基準となった現場に、医師たちの魂は引き裂かれている。抗議を続けたブロヴォント医師は、最終的に会社から理不尽に解雇された。


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