Mさんは絶句し、激しい怒りに体が震えた。しかし、社長に反論すればやりこめられることはわかっている。下手したら降格させられるかもしれない。黙ってその場をやり過ごすしかなかった。
しかし、怒りと無力感は限界に達しており、どうすればよいかわからず、筆者のカウンセリングに駆け込んできたのだった。
上場企業の約半数が同族企業
Mさんの会社は、いわゆる同族企業。現在の社長は2代目で、創業者の長男だ。ひらめきと行動力は目を見張るものがあるが、朝令暮改はしばしばだ。「できない」とは言わせず、無理難題を言いつけるため、疲弊した社員が離職することもたびたびある。
同族企業とは、創業家・親族などが経営や所有に強い影響力を持つ企業のこと。中小企業庁が2024年に実施した調査では、回答した企業のうち同族企業は79.0%。実に5社中4社が同族企業というのが、今の日本の実情だ。
日本経済大大学院の後藤俊夫特任教授、静岡県立大の落合康裕教授らがまとめた『ファミリービジネス白書2022年版』によると、2020年度時点で、上場企業3749社のうち、49.3%にあたる1848社がファミリー企業(同族企業)だという。上場企業においても、約半数は同族企業ということになる。
経営学やファミリービジネスの研究では、しばしば欧米の企業が「株式(資本)の所有と経営の分離」を重視するのに対し、日本は歴史的に「家業を存続させること」を重んじてきたと指摘される。事業を「個人の資産」ではなく、「次の世代に引き継ぐ家宝」と捉える意識が強く、親族への継承が最優先されやすいともいわれている。
第三者よりも血縁者のほうが、経営の一体感を保ち、家業を継承しやすいという思いも、その背景にあるとされる。なにより「トップの一言で即決できる圧倒的なスピード」が、かつての日本の高度経済成長期には強みとして機能していた。


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