「これは、折れた下駄の歯をつけるのにちょうどいいね」
当時、下駄は日常的に履かれていたが、体重が2本の細い歯に集中する構造のうえ、終戦直後の道は未舗装や砂利道だらけ。歯はしょっちゅう折れ、そのたびに下駄屋へ持ち込んで直してもらうのが当たり前だった。
サンプル品を受け取った新聞記者は、たまたま折れていた下駄をボンドで直してみた。すると、しっかりとくっついたのだ。
この予期しないできごとが、コニシの背中を押すことになる。声を受けたコニシは製本用のボンドBシリーズを改良し、53年に木材用の「ボンドCHシリーズ」を発売。これが、「ボンド木工用」の原点となった。
予想外の使用方法から始まったヒット商品
ボンドCHシリーズは発売後すぐに家具・建具業界で評判となった。そのうち「家庭でも使いたい」という声が寄せられるようになり、57年には家庭用「ボンド木工用」として、サンプル品のパッケージを商品化することになる。
当時、家庭で使われる接着剤といえば、紙を貼るためのでんぷんのりが中心だった。一方、木製品の修理には職人が使う「にかわ」があったものの、加熱が必要で扱いも難しい。壊れた家具や下駄を気軽に直せる接着剤は、まだ一般家庭にはほとんど存在していなかった。
そこへ登場したボンドは、一液性で混ぜる必要がなく、チューブからそのまま塗れる。ヘラや刷毛も不要で、にかわ特有のにおいもない。誰でも簡単に木製品を補修できる家庭向け接着剤は、新しい市場を切り開いていった。
折しも日本は高度経済成長のまっただ中。人口は増え続け、住宅建設や学校整備が全国で進み、家庭向け商品の需要も急速に拡大していた時期だ。
時代の追い風を受け、62年、コニシは緑色のキャップに黄色いボディの縦型パッケージへ刷新し、本格的に文具業界へ参入する。
「家庭用ボンドを発売した当初は、かなり積極的に宣伝したと聞いています」
販路として狙ったのは、学校の近くにある文具店だった。子どもたちが日常的に立ち寄る場所で認知を広げるため、キャラクター戦略も展開した。
初代ボトルに描かれた、王冠をかぶった子どものキャラクター「ボンちゃん」。新聞広告や営業車、配送車にも登場し、ボンドの顔として知名度向上に一役買った。60代以上なら、このぽてっとしたキャラクターを覚えている方も多いだろう。


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