病理診断では、病変組織を顕微鏡で観察することが欠かせません。ところが、2週間も土の中にあった遺体では、経験上、組織の構造や細胞が崩れてしまっています。顕微鏡で観察しても、ほとんど情報は得られないでしょう。
ぼくは、そう飼い主さんに説明しました。それでも飼い主さんは、「後悔したくないので、病理解剖をしてほしい」と言います。
「病理解剖では、遺体にメスを入れることになります。それでも何もわからず、かえって後悔することになるかもしれませんよ」
「それでも、解剖してほしいんです」
そんなやりとりを、何度か繰り返しました。もちろん、飼い主さんが強く希望するのであれば、遺体の状態が悪くても、ぼくは病理解剖を引き受けます。これまでも引き受けてきました。
飼い主が“求めていたもの”
話を続けているうちに、ぼくは「飼い主さんは、愛猫の死をまだ受け入れられていないのではないか」と感じました。そこで、慢性腎臓病の経過だけでなく、そのネコとの思い出についても尋ねてみました。
すると飼い主さんは、ネコと過ごした日々のことを滔滔(とうとう)と話し始めました。
飼い主さんはそのネコを、子ネコのころに拾ったそうです。
ネコを飼うのは初めてで、餌の選定や水の飲ませ方など、試行錯誤しながら大切に育ててきた。このときのように寒い時期には、こたつで一緒に寝転んで過ごした。2歳のころに、何をした。3歳のころに、何をした。大きな病気をすることはなかったけれども、12歳になって食欲が落ち、やせてきたため、初めて動物病院へ連れていった。そこで慢性腎臓病と診断された――。
「もっと早く病気に気づいてあげていれば、あの子は苦しくなかったのではないでしょうか……」
飼い主さんがしきりに繰り返すその言葉からは、愛猫の病気に早期に気づけなかったことへの強い後悔が伝わってきました。


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