車両の製造費用をめぐっても波乱があった。N700STの製造費用は1編成あたりに換算すると約103億円。一方、JR東海は2020〜2022年度に導入したN700S(40編成)は、車両製作費用、補修費用などを含めた工事費が約2400億円であり、1編成あたり約60億円となる。
つまり、N700STの価格は日本のN700Sの約1.7倍に達する。「なぜこれほど割高になるのか」と台湾側が疑問を抱くのも無理はなかった。古屋氏は「日本への不信感もあり、交渉決裂の危機があった」と回想する。事態の打開に向け、古屋氏は高鉄の董事(取締役)を務めていた東元電機(TECO)の黄茂雄氏とは何度も膝を突き合わせて打開策を探り、当時の岸田文雄首相にも情勢を報告して信頼の再構築に向け協力を仰いだという。
台湾基準に合わせるコスト
ではなぜ、これほどの価格差が生じたのか。要因の1つは開発にかかわるプロジェクトマネジメント、エンジニアリング、品質管理などのコストだ。N700Sの開発においてはこれらの業務はJR東海自体が担っている。車両に使われる電気機器など主要な構成要素はJR東海が選定し、単品での性能確認はもちろん、ほかの要素と問題なく調和するかなどの確認もJR東海が行った。これらに要する人件費などの費用は、N700Sの車両製造費用には含まれていない。
また、日本の車両をそのまま台湾に持ち込めるわけではない。台湾の法律や基準に合致させる必要があるからだ。たとえば新型車両の客室に用いられる素材はすべて燃焼試験を行い、当局にデータを提出するといった手続きが必要となる。「日本でOKだから台湾でもOK」とはならないのだ。

