環境配慮型の企業拠点という点では、各社が競い合っている。ではアップルの本社は何が違うのか。筆者が現地で最も驚いたのは、華やかな最新技術ではなく、工事の初期段階で下された、きわめて地味な一つの判断だった。
掘り出した土は、全部その場で「丘」に変えた
これほど巨大な建物を建てれば、地面を掘って膨大な量の土が出る。実際、この本社の工事では200万立方ヤード以上の土が掘り出された。普通なら、ダンプカーで延々とどこかへ運び出す。それが建設現場の常識だ。
だがアップルは、その土を1粒も敷地の外に出さなかった。
どうしたのか。すべて敷地内に留め置き、キャンパス内になだらかな丘を造る材料として使い切ったのだ。来訪者が目にする、緩やかに起伏する美しい地形。あれは景観デザインのために外から運び込んだ土ではなく、この建物を建てるときに掘り出した土そのものである。
さらに徹底している。この土地には以前、大手IT企業ヒューレット・パッカード(HP)の社屋が建っていた。それを解体したときに出たコンクリートも捨てず、回収して再利用している。つまりこの本社は、ほぼリサイクルコンクリートでできている。
廃棄物になるはずだったものが、そのまま風景と建物の材料になった。筆者はこの話を聞いたとき、本気で唸ってしまった。
数字にすると、その意味がよく分かる。アップルの担当者によると、この判断によってトラック14万台分の運搬が不要になったという。14万台のダンプカーが、土を積んで工事現場と処分場を往復する。その1台1台がディーゼルエンジンを回し、排ガスを出しながら走り続ける。その排出量が、まるごと消えた計算になる。
副次的な効果もある。運搬が減れば、周辺道路の渋滞も、騒音も、粉じんも減る。近隣住民への負担が軽くなる。土を捨てないという一つの判断が、二酸化炭素の削減だけでなく、地域環境の保全にまで波及しているわけだ。


※ログイン後、コメント入力が可能です。