先輩が顧客と交渉する際の張り詰めた空気、チームメンバーと膝を突き合わせて議論したときの熱量や表情の変化、ちょっとした雑談から生まれるアイデア。そして、わからないことがあれば、すぐその場で上司に声をかけて5分で解消するスピード感……。
こうした「現場の機微」に触れる機会が、画面越しのテキストコミュニケーションだけでは圧倒的に不足している。結果として、タスク処理は早いものの、イレギュラーな事態に対応できる「経験値」がなかなかたまらないのだ。
出社は「自己投資」へ〜ハイブリッドな働き方の模索
だが、若手の中にもこの事実に気づき始めている層がいる。
新入社員の何人かは、フルリモートが認められているにもかかわらず、「自分はフル出社します」と断言していた。
「私は一日も早く仕事を覚えてステップアップしたいんです。先輩たちの働き方を直接見たいですし、すぐに質問できる環境のほうが成長が早いと思うので」
そう意気込む新人たちの姿は、非常に頼もしかった。彼らにとって「出社」とは、会社から強制される義務ではなく、自らの成長を加速させるための「自己投資」であり「キャリアアップの手段」となっている。
リモート勤務を選びたがる人が多い中、逆に「出社」に新たな価値を見いだしているあたりが今どきらしいな、と興味深くも思えた。
誤解してほしくないのは、私は決して極端な「出社回帰論」を主張したいわけではない。リモートワークがもたらした通勤ストレスからの解放や、ライフステージに合わせた柔軟な働き方には、得がたいメリットがある。
今、企業の人事や経営層が直面しているのは、制度の過渡期ならではの生みの苦しみだ。「出社かリモートか」の二元論ではなく、両者の良い側面をどう融合させるかというフェーズに来ている。
個人で集中するタスクはリモートで効率的にこなし、チームでのブレストや若手の育成、複雑な意思決定の場ではリアルに顔を合わせる。自由な働き方を享受するための「プロとしての基本姿勢」をアップデートし、泥くさい人間同士の関わり合いを再構築していくことが大切だ。
「行きすぎたワーケーション管理職」や「勝手に移住する若手社員」を見過ごすことなく、会社と個人の新しいつながり方をどう描くか。人事担当者の葛藤と模索は、まだしばらく続きそうだ。

