例えば、先述した異形の怪物「セイレーン」。彼(彼女?)が歌を使って攻撃してくることは述べた通りですが、マンガ本編では「ラ~♪」など、書き文字やセリフでしか表現されていません。当たり前ですが、マンガには音声情報がついてこないためです。
一方、劇場版では歌がフルボイスで熱演されています。見事なソプラノのハーモニーは、敵ながら聞きほれてしまうような美しさを感じました。特に、セイレーンが仲間として引き連れる人魚たちがコーラス隊の役目を果たすことで、その魅力はより一層高まっています。
『劇場版 鬼滅の刃』などは「美麗なバトルシーンの作画が良い」と絶賛されていましたが、本作「映画ちいかわ」の場合は、「バトルシーンの音楽が良い」と断言できます。
美しく儚い演奏の中で、縦横無尽に動き回るツタを必死に回避するちいかわたちの様子は、創造と破壊の両方を一気に楽しめているようで、見事なものでした。
ほかにも、本作では「歌」が重視されているようでして、いろいろな場面で音楽に浸ることができます。一行が「島」を訪れた際には島民からの大合唱をもって歓迎されますが、このシーンで一気に作品に引き込まれたのは間違いありません。
しかも、美しいメロディーと演奏に対して、歌詞が「美味しい屋台がてんこもり わたあめ、ビールにじゃがバター」と、「おいしい屋台」のラインナップが若干オジサン臭いのもお笑いのポイント。わたあめはいいとしても、第2にビールが来るのはどうなんでしょうか。
「シュールなセリフ」と「ホラーとすら言われる結末」が魅力
ちいかわでは、セリフ回しや物品の配置が独特であることがたびたび取り上げられますが、本作でも「ナガノ節」は健在のようです。個人的に一番気に入ったのは、とあるキャラクターが放つ「身体が昆布くさい……うまみが染み込んでいるのか……?」というセリフ。この時、かなりの危機的状況にあることもあり「シリアスな笑い」を届けてくれます。

