だとしたら、喜びや悲しみ、怒りや恐怖のような感情も、生き延びてより多くの子孫を残すように進化してきたに違いない。
幸せもそのための道具の1つだと考えるのが、進化心理学だ。
欧米の学会を揺るがし、日本で無視された大論争
1953年にワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見し、遺伝子の視点から生き物の生態を解明するという生物学のパラダイム転換が起きた。
1960年代にウィリアム・ハミルトンが、アリやハチのような社会性昆虫に見られる利他性は、「種の保存」のために己を犠牲にしているのではなく、自分の遺伝子を後世に残すために血縁者を支援する「合理的な」行動であることを数学的に証明し、大きな衝撃を与えた。
70年代になるとロバート・トリヴァースが、鳥類などで、血縁関係がなくても「将来のお返し」を前提とした協力関係(互恵的利他主義)が成立していることや、オスとメスの性愛戦略の違いを「投資(リスクとリターン)」から説明できることを示した。
1975年にエドワード・ウィルソンが、それまでの知見を総合して昆虫・鳥類・哺乳類など社会的な動物の行動を一貫した論理で説明する大著『社会生物学』を発表した。
だがウィルソンが、その最終章「ヒト――社会生物学から社会学へ」で、ヒトの行動も社会性昆虫などと同じ進化の理論から理解できると述べたことで、科学者や知識人、メディアなどを巻き込む大論争が勃発した。これは「社会生物学論争」と呼ばれる。

