しかし、その期間に朝清さんは、後の人生を大きく左右する人物と再会する。台北高等学校で英語を教えていたアメリカ人、ジョージ・H・カー氏である。
カー氏は、第2次世界大戦中にアメリカの外交官を務めたほか、著作家、大学教授としても活躍した人物で、日本、台湾、そして琉球・沖縄の三地域を深く研究した、アメリカでも稀有な存在だった。
そのカー氏が1945年10月、台湾の降伏受諾式典にオブザーバー(アメリカ大使館付海軍武官補)として参加するため台湾へ戻ってきた。朝清さんは引き揚げまでの約1年半、そのカー氏と親交を深めることになる。
恩師との再会
朝清さんが基隆港から日本へ引き揚げる日、カー氏はわざわざ港まで見送りに訪れ、自らの名刺を手渡した。
そこには、「サヨナラを言う時が来た。君の新たな人生が成功することを願っている。必要があれば、米軍政府の誰にでも君を強く推薦するつもりだ」と記されていたという。朝清さんは、その名刺を今も大切に保管している。
カー氏はその後、1947年2月28日に発生した国民党政権による台湾人大虐殺事件「二・二八事件」を自ら目撃し、その実態を世界へ発信した。代表作『裏切られた台湾(原題:Formosa Betrayed)』は、現在も事件研究に欠かせない基本文献として高く評価されている。
沖縄へ引き揚げる約2カ月前には、父・朝平さんが78歳で亡くなった。台湾へ渡ってから22年間、一度も故郷・沖縄へ戻ることなく、その生涯を台湾で閉じたのである。
本書ではこの後も、朝清さんのアメリカ留学、ワンダリーさんとの結婚、沖縄におけるテレビ放送への尽力、ジョンさんら三兄弟の成長、そして孫の羽夏さんへと続く、川平家の歩みが丁寧に描かれている。
それぞれの時代を懸命に生き、歴史を刻んできた川平家の人々は、再び激しく揺れ動く世界をどのような思いで見つめているのか。
ジョンさんがラジオ番組の最後に必ず口にする「Peace」という一言。その言葉に、本書が読者へ伝えようとしている思いが凝縮されていると言っても過言ではないだろう。
本書は、一家族のファミリーヒストリーであると同時に、日本、沖縄、台湾、そしてアメリカの近現代史を考えるうえでも、ぜひ手に取ってほしい1冊である。

