日付が変わった午前0時過ぎ、車掌が「パスポートコントール」と言いながら、次々に個室のドアをノックした。ブルガリア側の最後の駅、スヴィレングラード駅に降り立ち、ホーム上にある国境審査場へと向かった。
ところで、シェンゲン協定加盟国では、2025年10月から新出入域システム(EES)が段階的にスタートした。非シェンゲン加盟国からシェンゲン加盟国へ入国する際、入国審査場にて、パスポート情報だけでなく、顔画像や指紋といった生体認証データも登録される。登録後は登録済みの顔写真や指紋を照合する仕組みだ。
ホーム上にある国境審査場に2列で並び、出国審査を受けた。まだ係員がなれていないせいか、想像以上に時間を要した。それでも、乗客が30人と少ないこともあり、約30分で車内に戻れた。EES導入以前の旅行記を読むと、ブルガリアの出国審査は係員が車内で乗客全員のパスポートを回収し、出国審査印を押した上で、返却していたという。
午前1時にスヴィレングラード駅を発車し、ブルガリア・トルコ間の国境を通過した。トルコ時間3時30分頃、今度はトルコ側の入国審査を受ける。トルコ側はカプクレ駅が国境駅となる。入国審査では手荷物検査もあるため、スーツケースを持って国境審査場へと向かった。トルコ側の審査はパスポートと顔を見られるだけで、すぐに入国印が推された。審査場と手荷物検査場の間には免税店があり、深夜にもかかわらず営業していた。店内には酒類が並び、免税店に立ち寄る乗客を見かけた。こちらも、降車後約30分で車内に戻れた。
ビジネス客は皆無
午前10時前、ほぼ定刻通りにイスタンブール・ハルカリ駅に到着した。かつて、オリエントエクスプレスが乗り入れていたイスタンブール中心地のシルケジ駅へは近郊電車「マルマライ」で約40分だ。
下車した乗客を見ると、中高年以上が多く、特にトルコ人グループが目立った。ビジネス客は皆無といってよい。芦原氏が指摘したとおり、まさしく「庶民の列車」だった。むしろ、庶民が格安で旅するなら、高速バスが価格面で有利といえる。
かつての名列車を引き継いでいるとはいえ、終着駅まで向かうのはわずかに3両、しかも郊外駅を終着駅にする姿を見ると、「イスタンブール・ソフィアエクスプレス」に「オリエントエクスプレス」の面影はなく、ずいぶん寂しく映った。

