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仕事と家族を失いアルコール漬け《天涯孤独の身》で終末期を迎えたがん患者を支えた、たった1つの「切なる思い」

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死を意識したとき、何を思い、何を願うかは、人それぞれだという(写真:Ushico/PIXTA)
  • 小笠原 文雄 医学博士、浄土真宗大谷派聖徳山伝法寺住職
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そんな山上さんでしたが、介護保険でヘルパーが部屋に入れるようにするために、在宅医療のキーパーソンであるTHP(トータルヘルスプランナー)の訪問看護師3人がヘルパーと一緒に行ったところ、部屋の酒瓶を片づける大掃除をすることを山上さんが許可したのです。

そこから、生活を支えるヘルパーが部屋に入れるようになりました。また、担当医と心が通うようにするため「山上さんと赤い糸で結ばれているね〜」を合言葉として使うようにしました。

心が通うようになると、ほほえみだけでなく、希望が湧き、生きる力がみなぎってきます。私たちは山上さんの部屋でACP(人生会議)を行うまでに至りました。自分の死を意識し始めた山上さんは、「死ぬ前に、子どもに会いたい」と願うようになりました。

それで、私たちは山上さんの元妻に連絡を取ろうとしたのですが、「子どもと会わせない」「亡くなるまで連絡不要。亡くなったら何とかする」という状況でした。つらい結婚生活を思い出すのも、山上さんと子どもを接触させるのも嫌だったのだろうと理解できます。

ただ、山上さん自身は、「子どもに会いたい」と強く願ったことをきっかけに変わりました。サボりがちだった仕事にも、熱意を見せるようになり、少しずつお金がたまると「いつか会えるかもしれない」という希望を持ち始めたのです。

結局、山上さんは子どもに会うことはかなわず、一人で旅立ちました。その報告を受けて、私が部屋に到着したときには、目を開いたまま、拳を突き出すような姿勢で山上さんはベッドから起きようとしていて、その手には、仕事で得たお金がギュッと握り締められていました。

「このお金を子どもに渡すんだ」

そんな希望を持って、山上さんは旅立ったのでしょう。山上さんの死は、大往生ではないかもしれませんが、絶望の中で亡くなったのではなく、「子どもにお金を渡す」という希望の中で旅立ったのですから希望死、半分大往生と言ってもいいのかもしれません。

なお、足の踏み場もない部屋を大掃除してくれた自費ヘルパーは、訪問看護師の有料ボランティアナースでした。

「ビールで乾杯!」も大事な生きがい

小池三郎さん(仮名)は、末期がんで余命3カ月と宣告され、病院の紹介状を持って小笠原内科を来院しました。一人暮らしだけど家で過ごしたいと希望したからです。身内は妹の佳子さん(仮名)だけで、他県に住んでいます。

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