スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作『ディスクロージャー・デイ』の日本公開は、当初の7月10日から10月1日へ、約3カ月延期された。一度発表した公開日を延期するのは前代未聞。日本だけが約4カ月遅れることになり、ファンからは不満の声も上がった。
だが筆者は、配給元の東宝東和の判断は正しかったと考える。
同作は、原作のない劇場オリジナル作品だ。しかも、当初の公開日の1週間前には『トイ・ストーリー5』が、1週間後には『キングダム 魂の決戦』が控えていた。巨匠スピルバーグの名前をもってしても、太刀打ちできず埋もれかねない。
夏休みの正面衝突を避け、公開を秋に延期した判断は賢明だっただろう。配信サービスの増幅効果を得られない作品は、それほど難しい時代になってしまった。
「配信を使い倒すヒット戦略」の時代へ
ネット配信は、もはや劇場と競合する存在ではない。同じIP(知的財産)を観客の間で循環させる装置である。
これからの興行設計は、①配信棚の整備(過去作をいつでもさかのぼれる状態にする)、②地上波やSNSでの着火、③劇場でのイベント鑑賞、という三段構えが標準になる。
今年はさらに、逆方向の循環事例まで生まれた。2月に劇場公開された『超かぐや姫!』は、1月にNetflixで配信されると口コミが拡散し、その熱が劇場へ逆流して興収は27億円に達した。「配信で認知し、劇場で体験する」導線が、シリーズ作品でなくても生まれたのだ。
ただし、この方程式が素直に機能するのは、シリーズものや既存IPに限られる。『ラストマイル』のように、シリーズがないなら「予習したくなる仕掛け」を人工的に作る手もある。いずれにせよ、配信を設計に組み込まない興行は、もう大作であっても成立しない。
10月1日、『ディスクロージャー・デイ』が満を持して公開される。増幅装置なきオリジナル大作が、時期をずらすという戦略でどこまで戦えるのか。夏を避けた選択が正しかったことは、この3連休の劇場の熱気がすでに証明している。10月、配信という武器を持たない巨匠のオリジナル作品がどう戦うのかを見届けたい。

