私は、しばしば安全保障を自動車保険に例えて説明する。保険をかけることは大切である。万一の事故に備え、誰もが加入する。しかし、多くの人は「事故を起こしたらどうしよう」と考えながら毎日車を運転しているわけではない。普段は仕事をし、買い物をし、家族と出かける。保険は、万一に備えるために存在するのであって、日常生活の主役ではない。
安全保障も同じである。軍事力は、万一に備えて整えておかなければならない。しかし、それは政治や外交、経済に代わるものではない。ところが近年、台湾海峡を語る際、この保険が主役になってしまったかのような印象だ。その結果、中国と台湾がなぜ対立しているのか、どのような政治過程を経て今日に至ったのかという歴史や政治の議論は後景に退き、軍事力や地理的条件から台湾海峡を理解しようとする議論が目立つようになった。
だからこそ、台湾海峡の見方そのものを考え直す時期が訪れている。
軍事力増強を見て侵攻時期は予見できない
中国の軍事力を評価する前に、1つ押さえておかなければならないことがある。ある国の軍事行動を分析する際、「能力」と「意図」を切り分けて考えることが基本となる。能力とは「何ができるのか」、意図とは「何をしようとしているのか」であり、この2つを区別して分析しなければならない。
近年、中国は軍事力増強を進めている。海軍力の拡充、ミサイル戦力の整備、台湾周辺での軍事演習の常態化などを見れば、中国が台湾へ武力侵攻する能力を着実に高めていることに異論はない。しかし、それだけで「中国は台湾へ侵攻する」と結論付けることは、そもそもの安全保障分析の基本から外れている。
確かに、中国は台湾侵攻に必要な能力を整備し続けている。その象徴としてしばしば取り上げられるのが、20年10月の第19期五中全会で示された「2027年建軍百年奮闘目標」である。しかし、この「2027年」は台湾侵攻の期限ではない。中国が軍事力整備の目標として掲げたものである。
もちろん、中国が台湾侵攻能力の整備を進めていることは否定しない。しかし、軍隊とは、命令が下されたときに任務を完遂できるよう能力を整備する組織である。「いざ命令が下されたが、能力が足りないので実行できません」では済まされない。軍事力整備は、軍隊として当然の行為なのだ。
中国の軍事力増強という「能力」だけを見て、そのまま台湾侵攻という「意図」だと読み取ることはできない。まず能力と意図を区別し、そのうえで両者を総合して評価する。それが、安全保障分析の基本なのである。
中国が台湾統一へ踏む2つのアクセル
では、中国は台湾をどのように統一しようとしているのであろうか。
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