有料会員登録 東洋経済オンラインとは
ビジネス

iPhoneの箱はなぜ無傷で届くのか、アップルが世界中に「おとりの箱」を送り続ける驚きの理由

6分で読める
アップル製品 パッケージ
アップル製品が梱包されているパッケージは、実は膨大な検証の上に成り立っている(写真:筆者撮影)
  • 草刈 和人 テックメディア「ゴリミー」運営
2/3 PAGES

重要なのは、中身が壊れないことだけが合格基準ではない点である。担当者は、落とした後も「箱に凹み一つない」ことまで求めると説明した。製品を守るだけでなく、開封の瞬間まで美しさを保つ。これがアップルの譲れない一線だった。

素朴な疑問は、なぜ1メートルで10回なのかということだ。答えは明快で、輸送中に実際に何が起きるかをデータで把握し、それに合わせて試験条件を決めているという。

たとえばiMacのような大型で重い製品は、高い位置から落とされる頻度が低い。そのため1メートルという基準で、実際に起こりうる落下のうち上位95%をカバーできるという。逆に、iPhoneやAirPodsのような小型軽量の製品ほど、放り投げられたり落とされたりしやすく、扱いはむしろ過酷になる。製品ごとに現実の扱われ方が違うから、試験の厳しさも変える。この考え方が全体を貫いていた。

こうした「データに基づく梱包設計」という発想自体は、アップルの専売特許ではない。アマゾンは、梱包材の削減にAIや機械学習を活用し、注文品ごとに最適なサイズと素材を選ぶ仕組みを構築していると公表している。実際、2015年以降で420万トンの梱包材を削減したとしている。ただし、アマゾンが「配送のスケール全体での最適化」を志向するのに対し、アップルは「自社製品一つひとつの開封体験と外観」まで基準に含める点で、目指すゴールの解像度が異なる。

世界中を旅する「おとりの箱」が握るカギ

では、その「実際にどう扱われるか」というデータは、どこから来るのか。核心にあったのが「デコイ(おとりの箱)」と呼ぶ仕掛けだった。

iPhoneやAirPods用の小さいデコイも用意されている(写真:筆者撮影)

デコイは中身こそ木製だが、実際の製品とまったく同じ重さに調整され、内部に加速度センサーが仕込まれている。アップルはこれを運賃を払って世界中に実際に配送し、戻ってきた箱から「何回、どの向きで、どの高さから落とされたか」を回収する。この取り組みは10年以上続いており、社内では輸送データについて「世界最大級のデータベースの一つ」と位置づけられていた。

ユーザーとまったく同じ配送体験を再現してデータを取り、それを製品づくりへ戻す。この循環が完成している点に、筆者は最も感心した。派手さはないが、地に足のついた仕組みである。

3/3 PAGES

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

ビジネス

人気記事 HOT

※過去1ヶ月以内に配信した記事の閲覧数