過酷な検証は落下だけではない。振動を再現するテーブルでは、2種類の異なる揺れを作り出していた。飛行機は細かく速い振動、トラックはサスペンションがあるぶん、ゆっくりと大きく揺れる。両者はまったく別物だという。
担当エンジニアによれば、大きく重い製品ほどゆっくりした揺れで壊れやすく、飛行機の速い揺れでは表面がこすれて傷みやすい。とりわけ怖いのが、箱と製品の間にわずかな隙間があるケースで、揺すられ続けると徐々に削れ、大きな損傷につながる。だからこそ、箱の設計には高い精度が要る。ラボの壁際には、船・飛行機・トラック・鉄道それぞれの温度と湿度を再現する試験室が並び、パレット1枚分を丸ごと入れられる大型のものもあった。
この「複数の輸送モードを想定した検証」という点では、サムスンも独自の歩みを進めている。サムスンはモバイル端末の梱包でプラスチックをパルプモールド(紙を固めた成形材)へ置き換え、包装内のプラスチック比率を総重量の4%程度まで削減したと公表している。方向性は共通するが、サムスンが素材の置き換えと再生材の比率向上を前面に出すのに対し、アップルは「輸送中に加わる衝撃そのものをデータ化する」ところから設計を組み立てる。同じ脱プラでも、アプローチの重心が違うのが興味深い。
「箱ごと何千回」が意味する、経営としての一貫性
製品の開発期間中、アップルは数千台分の箱を落とし続けてデータを取るという。単なる品質管理を超えた、執念に近い作り込みである。
背景には、梱包が単なる「捨てられる外装」ではないという思想がある。多くの人は、開封すればあとは製品しか見ず、箱はそのまま処分する。しかしアップルは、その箱にすら製品と同じだけのストーリーと配慮を込めていた。マイクロソフトなども梱包の持続可能化を進めているが、開封体験の質と外観の美しさを検証の合格基準にまで組み込む姿勢は、際立って徹底している。
もっとも、これは「良い体験を守るために、地道な検証に投資し続ける」という経営判断の結果でもある。手元に届いたiPhoneが無傷で、しかも箱まで美しい。その当たり前の裏で、箱は今日も世界のどこかで落とされ、揺すられ、データを取られている。何気ない一つの箱に、企業の一貫性はにじみ出る――それが、この取材で得た最大の実感だった。

