「正直、『これは売れないからやめたほうがいい』という雰囲気でした。見た目も当時としてはかなりインパクトがありましたし、『こんなものを着ける人はいないのでは』と思われていたんです。農協の担当者も半信半疑で、『とりあえず置いてみようか』という反応でした」
ところが、その予想は大きく覆される。実際に使った農家から「使いやすい」と口コミが広がり、注文が徐々に増えていった。
特に支持を集めたのが、ブドウや桃、梨などの果樹農家だった。果樹栽培では上を向いて作業する時間が長く、顔に直射日光を浴びやすい。また、日焼け対策だけでなく、ほこり対策として利用するユーザーもおり、当初は想定していなかった用途にも広がっていった。
思わぬ場所で使われ始めたヤケーヌ
農業向けの商品として人気を集める一方で、ヤケーヌは思わぬ場所でも使われ始めていた。
「ある日、お客様から『テニスでも使っています』という声をいただいたんです。それは面白いと思い、実際にテニスクラブへ足を運び、使用している様子を撮影させてもらいました」
村瀬氏は、その様子を自らプレスリリースとして発信。地方テレビなどにも取り上げられたことで、ヤケーヌは農業以外にも、屋外スポーツを楽しむ人たちなどへと少しずつ認知を広げていった。
こうした手応えを受け、同社は農業向けにとどまらず、一般消費者にも商品を届ける取り組みを本格化させる。
2016年、村瀬氏が3代目社長に就任すると、さらなる市場拡大に向けてBtoC戦略を強化。パッケージデザインを刷新したほか、販路も広げ、農業向けの機能性を生かしながら、アウトドアや日常使いのアイテムとしてブランドの認知を高めていった。
もう一つの転機がコロナ禍だった。
マスクの着用が日常となり、顔を覆うことへの抵抗感が薄れたことも後押しとなった。この時期に売り上げは大きく伸長した。
2023年頃からは、女性誌やライフスタイル誌で取り上げられる機会が増えたほか、SNSでの口コミも広がり、ユーザー層は若い世代へも拡大。売り上げは毎年、前年を上回るペースで伸び続けているという。
「正直、私たちが何か大きな広告戦略をしたというより、お客様がSNSや口コミで広げてくださった部分が大きいですね。私たちが『この場面で使ってください』と用途を決めたわけではなく、お客様自身が『釣りでも使える』『子どもの運動会でも便利』と、新しい使い方を見つけてくださったことが、ここまで広がった要因の一つだと思います」

