OpenAIの「GPT-Red」も、防御のために攻撃役を担うAIです。AIエージェントをだます未知のプロンプトインジェクション課題では84%の成功率を記録し、人間のレッドチーマー(攻撃側)の13%を大きく上回りました。OpenAIは発見した攻撃手法をGPT-5.6の訓練に使い、耐性を高めています。
アメリカ企業が強力な攻撃能力を持つAIの提供先を制限し、利用状況を監視している一方、同種の能力は中国製のオープンウェイトモデルにも広がり始めています。コード解析ツールを提供する米Semgrepの限定的な試験では、GLM-5.2がアクセス制御の欠陥を探す課題で、一部のClaude Code構成を上回ることがありました。
GLM-5.2のようなオープンウェイトモデルは、入手して自社の環境で動かせます。防御側から見れば、機密性の高いコードを外部に出さないまま検査できる利点があります。
ただし裏を返せば、いったん配布されたモデルは、攻撃に転用されても、開発元が利用状況を監視したり提供を止めたりできません。強力な能力を誰でも手元で動かせる状態は、防御を後押しすると同時に、悪用への歯止めを失わせます。
こうした開放性の功罪は、米中競争の新しい論点になりつつあります。競われているのは、性能や価格だけではなく、強力な能力をどこまで公開し、攻撃側に渡るのを防ぎながら防御側に届けるのか。その扱い方をめぐる争いへと広がっているのです。
日本企業は国籍よりデータ経路で使い分ける
日本企業が注目すべきなのは、モデルの国籍だけではありません。入力したデータがどこへ送られ、誰に管理されるのかを確認することが重要です。
個人情報保護委員会はDeepSeekの公式サービスについて、個人情報を含むデータが中国のサーバーに保存され、中国の法令が適用されると注意喚起しています。こうしたサービスへ機密情報をそのまま入力する使い方は避けるべきです。
ここで区別したいのが、「中国製のAIモデル」と「中国企業が運営する公式AIサービス」です。
同じモデルでも、中国企業のAPIを使う場合、日本のクラウド事業者を経由する場合、自社環境で動かす場合では、データの保存先や管理主体が変わります。反対に、アメリカ製や国産のAIでも、利用条件を確認せず無料サービスへ機密情報を送れば、安全とは限りません。
機密性の高い用途では、入力データが学習に再利用されるか、どの国で処理・保存されるか、いつ削除されるかを確認する必要があります。再委託先や管理者の閲覧権限、アクセス制御、監査体制も重要です。
個人データを海外の事業者に取り扱わせる場合は、個人情報保護法上の外国移転に関する要件も検討しなければなりません。国名だけで判断するのではなく、ゼロデータ保持や国内リージョンなど、必要な条件を満たす企業向けサービスを選ぶのが基本です。
中国製のオープンウェイトモデルを自社環境で動かせば、入力データを中国企業のサーバーへ送らずに利用できます。ただし、外部通信や依存ソフト、更新経路、ログ、データの保存先、ライセンスは自社で管理する必要があります。データ経路のリスクを抑えられる一方で、安全対策や保守の責任も自社が負うことになります。
公開情報の要約や分類、定型的な文書作成など、機密性の低い情報を大量に処理する用途では、低価格な中国系APIも有力な選択肢です。高い精度が求められる案件だけを上位モデルへ振り分ければ、品質を維持しながらコストを抑えることができます。
そこで現実的なのが、用途に応じて複数のモデルを切り替える「マルチLLM」運用です。入力情報の機密度や、求める精度、予算、応答速度を基準に、利用するモデルと接続先を振り分けます。障害や値上げ、モデルの提供終了にも対応しやすくなり、特定の企業に依存するリスクも下げられます。
生成AIの最高性能を競う領域ではアメリカ勢が先行している一方、中国勢は開発効率や価格、オープンウェイトを武器に存在感を高めています。日本企業に必要なのは、米中のどちらか一方を選ぶことではありません。用途と機密度に応じてモデルと接続先を使い分け、データの経路を管理しながら、必要に応じて切り替えられる体制を整えることです。



