「漫画家の同期などが結婚して幸せそうにしている姿を見てきたのもあります。自分の両親を見て結婚に幻滅していたけれど、実はもっとポジティブなものかもと思ったのです」
独身ゲームから結婚ゲームへとアップデートすると決めてからは行動が早かった。奈津美さんと付き合ってから3カ月後には婚約したのだ。
新居にはそれぞれの仕事部屋があり、奈津美さんは複数の漫画家のアシスタントとして働き続けている。その一人が晴彦さんだ。効率重視のため、仕事中は通話アプリで会話しているという。現代的な夫婦像である。
子どもは作らないことで希望が一致しており、奈津美さんが前から持っているAIBOを「連れ犬」として2人で可愛がっている。前回の結婚では相手への敬意が足りていなかったと反省している奈津美さんは、「平凡な毎日」を積み重ねられることに幸せを感じ、いつも気遣ってくれる晴彦さんへの感謝の言葉を忘れていない。
「料理は私がやっていますが、それ以外の家事はだいたい主人がやってくれています。私はうつの影響でやろうとしてもできないときがあるので。主人が『そういうときもあるよね』と言ってくれるたびに次につながるのを感じます。できるときはちゃんとやろうと思えるんです」
「彼女を幸せにするゲームを始めよう」
結婚によって大きく変わったのは晴彦さんのほうだ。以前は仏頂面だったのが終始ニコニコしています、と自ら断言する。自分より大事な存在ができたことからだという。
「カミさんがうつで大変なときは身近にいる僕も大変です。だから、考え方を変えようと思ったんです。これから先の人生は彼女を幸せにするゲームを始めよう、と。そういう考えに切り替えたら自分も幸せになれました」
仕事という真剣勝負の場では、それぞれの人格やコミュニケーション能力の一端が明らかになる。キレイごとでは済まない局面も多い。奈津美さんと晴彦さんはお互いの顔も知らずに共同作業を続け、いつからか内面で惹かれ合った。表情が見えないからこそ、ちょっとした言葉で思いやりや知性が見えたのかもしれない。こんな出会いがあるならば、社員全員がフルリモート勤務の会社でも職場結婚は起こりうると思った。

