離婚してから、村の住民は章子さんに、イノシシの肉やにわとりの卵をよくお裾分けしてくれるという。
「いろいろな人が助けてくれます。本当に、いろいろな人が。過去3年間は、黒い影の部分を見なきゃいけなかった時期だったから、光が見えると前にもましてその尊さや美しさがわかるようになりました。人からの親切のありがたさや、社会の温かさを感じられるようになりました」
章子さんは現在、いくつかの仕事を掛け持ちしている。収入は日本の新卒サラリーマンくらいだという。子どもを預けている週はシフトを増やして働き、子どもを引き取っている週は、家を空けられない。自由な時間は、ほとんどないという。
それでも、と彼女は続ける。
「今、やっと自分の力でスペインで生きてるな、って思うんです。今までは彼ありきだったから」
長い間、章子さんにとってこの国との接点は、夫というクッションを通したものだった。それが、自分の頭と手を使い、役所関係や仕事のことを管理していくうちに、少しずつ変わっていった。
「今は、彼も彼の家族も通さないで私が直接、人や社会と関わっている。これを経験できてよかった、と思います。それに、前はもう少し、自己中な考えを持っていた。でも今は、自分の要求も叶えつつ、この社会で自分が返せることって何だろう、役割って何だろうって、考えるようになりました」
強くなりたくて、強くなったわけじゃない
この数年で、章子さんは「図太くなった」と感じている。
「強くなりたいと思って強くなれるわけじゃなくて。経験のなかで、ビシバシ鍛えられるんですよね」
5年後も、10年後も、どうなっているかはわからない。
「未知数ですね、本当に。だから、あんまり考えないようにしてる。今日なら今日、この1週間ならこの1週間、やるべきことをやりたいと思っています」
取材を通して、かつて夫婦だったふたりに共通点があることに気づいた。
それは、ふたりが今もそれぞれの場所で、「子どもたちにとって、いい親でいよう」ともがき続けていることだ。元夫もまた、新しい仕事を通じて、自分自身と向き合う時間を重ねている。
綱渡りは、まだ続いている。それでも章子さんは今、誰にも頼らず自分の足で、一歩一歩進んでいる。
(本記事は前編の続きです)

