加えて、本作で描かれるのは、差別や不平等と戦う黒人青年のサクセスストーリーであり、家族との衝突と葛藤を経て、自分の人生を掴み取ろうともがくひとりの孤独な若者の人間ドラマだ。
そこにあるのは、世界共通の普遍的な家族の物語。日本人が好きなテーマでもある。音楽以外でも、普遍性や共感性など日本の観客を引きつける要素がふんだんにある。
『ボヘミアン・ラプソディ』のような社会的ヒットになるのか?
個人的に残念だったのは、彼の人生の象徴的な出来事を映すいくつかのエピソードの取り上げ方だ。繰り返していた整形手術、重症を負ったCM撮影中の大事故、音楽界の黒人差別との闘いなどは、表面的になぞるように触れはするが、踏み込まない。ネバーランドは言葉こそ出てくるが形だけだ。
そんなエピソードを映しながら、掘り下げも前後のつながりも浅く、ちぐはぐなイメージが否めない。それぞれの細部を気にかけ始めると、消化不良感は残った。
ただ、本作は彼の音楽を楽しむ映画の側面が大きい。リアル世代にとっては、心の琴線に触れて魂を揺さぶられる名作になるだろう。
一方、彼を知らない若い世代にとっては、ひとりの黒人青年の成長を描く人間ドラマであり、普遍的な家族の物語として映るに違いない。
本作をあのマイケル・ジャクソンの物語として認識するかで、この映画の価値は大きく変わる。そう考えると、若い世代への訴求には、何かのきっかけがなければ、限界があるかもしれない。
筆者が鑑賞した公開4週目の週末のシネコンの観客は、年配層がほとんどだった。若い世代が動かないと『ボヘミアン・ラプソディ』のような社会的ヒットにはならない。ここからさらに伸びるのか、失速するのか。夏休み本番を迎えるこれからが正念場だ。

