旅館の展望風呂のように高い場所にポンプでお湯を汲み上げれば、それだけコストがかかる。利益を追求する観光施設ならともかく、地元民が日常使いする共同浴場にそのような費用は賄えない。
「きっと温泉が湧いて、そこにお風呂を作って、一番簡単な形でお湯を汲もうと思った時の形状なんだと思うんですよね」と、河原の湯組合長の眞貝朋男(しんがい ともお)さんは語る。温泉が湧く場所に、最小限の構造物を建てたのが、この形だったのだ。
99年(平成11年)にダムができてからは、上流側の氾濫は激減した。ただもう一方の新湯川はダムがなく、台風時には今も増水する。加えて、改修工事による思わぬ影響もある。もともと脱衣所と浴場は同じ高さにあったが、93年の改修の際に浴場の位置が50センチほど掘り下げられた。
結果として浴場が川の水位に近くなり、台風時には排水口から川水が逆流してくることもある。川の水位があと30センチ上がれば浴槽に届くという状況になると、さすがにみんな風呂から出る。「それでもね、みんなまた懲りずに入りに行くんです」と眞貝さんは言う。「お家にお風呂がないからね」と言葉を続けた。
かつて60〜70軒あった組合員は現在約28軒に減った。河原の湯では今も毎日掃除当番があるが、人数が減った分一人ひとりの負担は増し、大規模修繕の費用を自力では賄えない状況が続いている。それでも生活の一部だからこそ、壊れてもまた作り直すということが成立してきたのだろう。
共同浴場を生んだ温泉大国・群馬
なぜ群馬に、こういう温泉が生まれたのか。答えの一つは、この県の温泉の圧倒的な豊かさにある。群馬県の温泉地数は97カ所(全国8位・関東1位)、源泉数は459本(環境省・令和5年度)だ。四万温泉だけでも42本の源泉があり、33件の宿泊施設に対して供給が需要を大きく上回っている。
「源泉が豊富でなければ共同浴場は成り立たないのでしょう」と四万温泉協会事務局長の宮﨑博行さんは話す。「源泉が少なければまず旅館が独占する。無料開放なんてできないはずです」。実は河原の湯は観光客向けにも無料で運営されており、脱衣所の入り口に「寸志」と書かれた木箱が設置されているだけなのだ。

