成長戦略実現ケース①の試算では、危機管理投資・成長投資のための「新たな投資枠(高市首相はこれを『「強く豊かな日本」投資枠』と名付けた)」のうち、別枠管理する部分を、将来に確保する償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」の発行によって資金を確保しようとしている。まさに、この「つなぎ国債」は、成長戦略実現ケース①の試算では、財政赤字として織り込まれていない国債の増発である。
それまでも加わるわけだから、国債金利は1月試算の想定よりも上がることはあっても下がることはない。
そこで、筆者が成長戦略実現ケース①と整合的な金利(図1の赤線)よりも金利が0.5%ないしは1%上昇した場合の試算を行った。前述の通り、市場の金利が上昇しても遅れて予算制約式上の金利は上昇するから、直近の国債のデュレーションに近い7年後に成長戦略実現ケース①と整合的な金利よりも0.5%ないしは1%上昇すると仮定して試算した。金利が0.5%上昇した場合を図2の緑線、1%上昇した場合を図2の青線で表している。
この金利上昇が、高市首相が気にする財政の持続可能性にどう影響するかをみよう。
金利が0.5%上ぶれれば、債務GDP比は反転上昇する
もちろん、金利が上昇すれば、民間経済にも投資の鈍化などの影響が及ぶが、ここでは名目成長率は変化しないと仮定する。金利が上がっても経済成長は鈍化しないが、財政面で利払い費が増えてそのぶん国・地方の公債等残高が減らせない(より大きく増える)という形で影響を測ってみよう。
繰り返すが、成長戦略実現ケース①では、高成長も寄与して、国・地方の公債等残高対GDP比が低下し続けるという試算結果だった。では、国債の増発が引き金になって、金利が0.5%ないしは1%上昇した場合その結果はどうなるか。
それをみたのが、以下の図3である。
図3の赤線は、内閣府も示している成長戦略実現ケース①の試算結果である。しかし、金利が0.5%上昇した場合の緑線は、33年度までは低下し続けるが、その後に反転上昇している。金利が1%上昇した場合の青線は、31年度を底に反転上昇し、37年度には26年度の国・地方の公債等残高対GDP比を上回ってしまうのである。名目成長率が成長戦略実現ケース①で想定している水準を維持してもである。
これでは、財政運営の目標の中核と位置付ける国・地方の公債等残高対GDP比の安定的低下は、絵に描いた餅である。金利が少しでも上がると、高市首相が目指す経済成長と財政の持続可能性の両立は実現しないのである。
内閣府の成長戦略実現ケース①が、いかに微妙な金利と成長率の関係の上に成り立っているかがわかる。
名目成長が想定を0.5%下回れば、債務GDPは反転上昇
加えて、内閣府が示した試算結果をみると、成長戦略実現ケース①よりも各年度の名目成長率が0.5%前後低い成長戦略実現ケース②では、国・地方の公債等残高対GDP比が35年度以降反転上昇する結果が示されている。名目成長率が0.5%前後低下しただけでも、経済成長と財政の持続可能性の両立は実現しないのである。これを示したところに、内閣府の良心が垣間見える。
それでも、経済成長と財政の持続可能性の両立を目指したいのならば、まだ方法がある。それは、PBの黒字をもっと確保することである。
成長戦略実現ケース①の名目成長率が実現するとして、40年度における国・地方の公債等残高対GDP比を、内閣府も示している成長戦略実現ケース①の試算結果(図3の赤線)と同水準にするためには、金利が0.5%上昇した場合はPB黒字を対GDP比で追加して約0.7%増やせば(トータルで約1.5%)実現できる。
金利が1%上昇した場合はPB黒字を対GDP比で追加して約1.3%増やせば(トータルで約2.2%)実現できる。PB黒字の確保がいかに大切かがわかる。
PB黒字化目標を軽んじた結果、成長戦略実現ケース①で不十分にしかPB黒字を確保できず、ちょっとした金利上昇に直面しただけで、経済成長と財政の持続可能性が両立できないという羽目になる。
ついでにいえば、高市内閣の下で出された26年1月の中長期試算での成長移行ケースでの国・地方の公債等残高対GDP比は、図3の紫線である。これをみると、高市内閣はほぼ半年前の1月段階で35年度には160%近くまで低下するシナリオを見ていた。
それと比べると、日本成長戦略を踏まえた成長戦略実現ケース①の国・地方の公債等残高対GDP比の下がり方は、40年度でも170%近くまでしか下がっておらず、志の低さが露になっている。
PB黒字をもっときちんと確保しなければ、「日本成長戦略で経済成長と財政の持続可能性の両立可能」は望み薄である。

