結局、飛行士たちは4日目以降、液体の排泄についてはトイレを使わず、帰還まで旧来のパックを用いることになった。
宇宙トイレの課題
軌道上や月へ向かう宇宙船内は、そのままでは身体が浮いてしまう微小重力環境になることはすでに説明した。地上では、人の体内の水分は下半身にたまりやすいが、宇宙空間では全身に均等に水分が行き渡る。そのため、ミッション中の飛行士はよく顔がむくんだようになる。
また、微小重力の状態では、膀胱に液体がたまっても尿意を感じにくくなるため、飛行士は用を足そうとして初めて、かなり満タンに近かったことに気づくことが多いという。
そんな宇宙でまともに機能するトイレを作るのは、思ったよりも難しい。コーネル大学の航空宇宙工学教授、メイソン・ペック氏は「微小重力環境では、流体の流れ方が我々の知っているそれとは異なる」と説明する。
地球上では、飲み物はコップ内に留まり、雨水は地面の低いところに集まって水たまりを作る。そしてもちろん排泄された液体は、便器の底から配水管のなかへと流れ落ちていく。これらはすべて重力のおかげだ。
しかし重力の影響がほとんどない宇宙では、その動きはまったく違ってくる。表面張力、排水管の形状、宇宙船のわずかな動きなどが、宇宙空間における液体の動きに影響を与える。そして、これらの微妙な要素を考慮した機器を設計するのは難しいのだ。ノースダコタ大学の宇宙工学教授であるパブロ・デ・レオン氏は、液体を配管から押し出すためにファンで気流を起こすと、逆に液体に気泡が生じて配管に付着する可能性があり、これが詰まりの原因にもなり得ると指摘している。
さらに事態を複雑にしているのは、宇宙空間はほぼ真空であるため、温度が激しく変動する点だ。ペック氏は「人は、南極はものすごく寒いと思うだろう。だが宇宙の方がもっと寒い」「サハラ砂漠やモハベ砂漠はものすごく暑いと思うだろう。だが宇宙の方がもっと暑い。しかも、その寒さと暑さはほんの数分のうちに入れ替わる」と述べている。上で説明したオリオン宇宙船の液体配管の詰まりへの対処も、このような現象を想定してのことだった。

