このような高齢者のニーズは、金融庁にはくみ取ってもらえませんでした。
24年に始まった現行のNISAでは、毎月分配型投信をつみたて投資枠からも成長投資枠からも排除しました。長期の資産形成を目的とする制度の趣旨に合わないというのが理由です。しかし、その結果としてシニア層の多くが「自分向けの制度ではない」とNISAの利用を見送り、課税口座(特定口座など)で毎月分配型を買い続けたのです。
この矛盾を解消するために浮上したのが「プラチナNISA」構想です。金融庁は25年4月、65歳以上の高齢者を対象に毎月分配型投信をNISAの対象に加える新制度の検討を開始し、26年度税制改正要望への盛り込みを議論しました。ただし、25年12月公表の税制改正大綱には盛り込まれず、制度化は見送られています。
それでも、プラチナNISA構想が国政レベルで議論されたこと自体は重要です。「タコ足のリスクは承知の上で、高齢者の毎月分配型投信のニーズは無視できない」と、金融庁自身が認めざるを得なくなったことを意味しているからです。
現役世代と高齢層で異なる最適解
毎月分配型投信をどう評価すべきか。答えは、誰が・いつ・何のために使うかによって変わります。
資産形成層にとっては、複利効果を阻害する毎月分配型投信は「絶対に避けるべき非効率な商品」です。同じ資金を低コストのインデックスファンドで長期運用すれば、数十年後の資産額には大きな差が生まれます。
一方、リタイア層にとっては話が違います。すでに資産があり、それを計画的に使い切ることが目標であれば、毎月分配型は「手数料を払って、心理的負担なく元本の取り崩しを自動化するサービス」として機能します。
一見、非合理に見える行動の裏には、その世代にしか見えない切実な必然性があります。オルカンに沸く現役世代の熱狂と、特定口座で毎月分配型を買い支えるシニア層の静かな老後。この投信市場の二極化は日本社会の縮図であり、高齢化社会を映す鏡といえるでしょう。

