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そうした中、見過ごされがちだが、実は極めて高い資産価値を秘めているのが「音楽演奏」である。音楽演奏とは、AIやロボットによる自動生成ではなく、人間である楽器演奏者や歌唱者がリアルタイムで行う生演奏を指す。
娯楽を超えた「感情共有」のメカニズム
音楽は古来、言葉を持たない時代から人類のコミュニケーション手段として機能してきた。人類学者の山極壽一氏が推察がするように、身体でリズムを刻み、他者と身体を同調させて共鳴する行為は、人間の共感力の始まりだったとされる。
現代においても、音楽演奏は聴く者と聴かせる者とをつなぐ強力なコミュニケーションの機会である。 音楽演奏の場において、演奏者と鑑賞者は単なる発信者と受信者という関係ではない。
演奏者は自らの音楽を通じて鑑賞者にポジティブな高揚感だけでなく、「せつなさ」や「憂鬱」といったネガティブな感情も含めて共有したいと願っている。一方の鑑賞者もまた、音楽作品に適した強さや親和といった感情の共有を期待している。
このように、音楽演奏は双方向で感情を創り上げていく体験的事象であり、そこには濃密な「感情共有」が存在している。 この感情共有のプロセスは、人々の主観的な幸福感を高める要素となる。自らの気分や調子を良い状態に微調整していくことを「ウェルチューニング(well-tuning)」と名付けた。
音楽演奏はまさにこのウェルチューニングの機能として社会に寄与する力を持っている。
音楽家の無形ノウハウが持つ「資産」としての価値
しかし現実には、高度な音楽演奏の技法を身に付けたとしても、それを生涯の職業として経済的に安定させることは非常に困難だ。その原因の一つは、演奏者が長大な時間をかけて獲得してきた技術や技能の価値が、社会において明確に定義され、測定されにくいことにある。
あらためて演奏者のスキルを可視化してみると、そこにはビジネスパーソンにも通じる高度な能力が集約されていることがわかる。具体的には、喜怒哀楽を把握し他者と一体感を構築する「感情コミュニケーション」、他者の音を傾聴し全体の調和を図る「サウンドコミュニケーション」、さらには身体動作や空間を認知する「技術」、多文化を理解し楽曲を解釈する「理論・知識」である。
これらは、多様な価値観が交錯する現代のビジネス現場で求められる、対話を通じた理解、状況の敏感な察知、新たな構想の融合といったエンタテインメントの能力と深く結びついている。リーダーがチームメンバーの感情を把握し、対立を回避しながらプロジェクトを推進する能力が求められるように、演奏者もまた、人々のポジティブやネガティブな感情を捉え、音楽で支援する技術を高めている。
これら目に見えない価値ある情報やノウハウを集積し、資産として可視化することは、音楽業界のみならず、社会全体の人的資本を高めることにつながるはずだ。

