退院後も高次脳機能障害の後遺症が強く残った。食事をしたことを忘れる。同じメールを何度も送る。人の話を覚えられない。認知症患者に見られるような症状がAさんを襲い、家族から「それさっきも言ってたよ」と指摘されるたび、自分が壊れていくような感覚を覚えたという。
それでもAさんは以前の自分を取り戻すため、深夜まで小学校低学年向けのドリルを解き続け、脳のリハビリに励んだ。
「決して前向きな気持ちではなかったけど、もう意地でした。絶対に元通りになってやる、って」
また、高額な治療費も退院後のAさんを苦しめた。「抗NMDA受容体脳炎」は難病指定されていないため、高額療養費制度の適用を受けても、Aさんの場合は毎月8万〜10万円ほどの治療費が発生し続けた。社会人1年目だったAさんにとって、その負担は大きかった。
そのため社会人2年目になる2013年4月、Aさんは社会復帰へのリハビリと治療費の支払いのために、高次脳機能障害が残る状態で復職する。
だが、当然のことながら以前のような業務は任せてもらえない。チラシ折りや倉庫整理など、1日中ほとんど誰とも会話せずに、ひたすら単純作業を繰り返す日々が続いた。
「同期が営業成績を上げるたびに社内で評価されていく中、自分だけ社会から取り残されている感覚でした。あの頃は退院してリハビリを頑張っても、到底元の人生に戻ることはできないと感じていました」
卵巣奇形腫発見で手術→みるみる回復
そんな中、転機が訪れる。発症から約1年後、入院中には見つからなかった卵巣奇形腫が見つかったのだ。「抗NMDA受容体脳炎」は卵巣奇形腫を異物と認識した免疫が、脳まで攻撃してしまうことで発症するケースも多く見られる。
