ここまで聞いてきた作品の成り立ちは、ある大きなテーマに集約される。インタビューの中で瀧本監督が語った言葉が、作品の核心だと受け止めた。
「僕の中の裏テーマは、細木数子が日本の戦後史の中ですごく象徴的な人物やということなんです。女性であそこまでのし上がった人はそうそういない。貧困から高度経済成長とともにどんどん豊かになって、バブル崩壊でぺしゃんとなった後に逆に勢いを増して、日本全体が沈んでるときに女帝のように君臨する。彼女の歴史そのものが日本の戦後史なんですよ。これ、なかなかおらん人物やなと。ものすごく意識しました」(瀧本監督)
だから、焼け跡と銀座のセットは譲れなかった。
「絶対銀座のオープンセットは作らなあかんで、焼け跡闇市はやらんとあかんで。そんな話はいちばん先にしました。そこで手を抜いちゃうと、たぶん戦後を感じてもらえなかったんちゃうかなと思います」(瀧本監督)
岡野プロデューサーも「あのオープンセットがなくても成立はするけれど、戦後史をちゃんと描くにはああいうショットがあるかないかで絶対的にクオリティーが変わる」と語る。そのうえで「監督のその意識が、映像の品格になっていると思うんです。下世話さを持った物語だけど品のよさがある」と続けた。
確かに、あのゴージャスな夜の銀座が徹底的に再現されていたからこそ、妖しい物語に誰しも引き込まれ、圧倒されただろう。
人は過去の記憶を美化していく
今回インタビューした中で最も胸を打たれたのは、瀧本監督が自身の母親について語った場面だった。
「うちの母親は細木さんと同い年なんですよ。まったく昭和13年生まれ」(瀧本監督)
最近は、繰り返し「昔は良かった」と話すようになったという。
「でも、それがウソなんですよ。僕が5歳、6歳ぐらいの頃、親父は本当にろくでもない人やった。家に帰ってこなくて、大げんかになって。僕はこたつの中で寝たふりをしていた。こたつの赤い光がいまだに脳裏に焼き付いてる」(瀧本監督)
過去のそうした部分を母は語らなくなり、いいことばかり話すようになった。「ああ、人って過去の記憶を美化していくんだなあ」と瀧本監督は言う。
