やめれば食べていけなくなるからと言い訳をする根本さん。するとおばあさんはさらに話を続けてきた。
「音楽をやりたいならしがみつきなさい。お金が出ようが出まいが、音楽にしがみつきなさい!」
106歳とは思えないパワフルなしゃべりに圧倒されながら、根本さんはどこかずっしりと重たいものを胸に感じた。数日後、根本さんはこのおばあさんの言葉の通り、介護施設での仕事を辞めた。
めぐってきたチャンス
その後、音楽につながる仕事だけに絞る決意をした根本さんのもとに、ある電話がかかってきた。電話の主は地域の社会福祉協議会の人だった。
「地元の中学の合唱部の指導をしてくれる人を探しているんですけれど、根本さん、合唱の指導経験があると聞いて、引き受けてもらえませんか?」
この相談に根本さんは即答した。
「ぜひやらせてください!」
電話の主は驚いた声で「いやいや、そんな即答しないで、ちょっとよく考えてくれますか。実は、無報酬のボランティアでやってほしいという話なんです」と告げた。
無報酬と聞いて、一度は考えこんだ。だが、ここで根本さんの耳があのおばあさんの言葉を思い出した。
「お金が出ようが出まいが、音楽にしがみつきなさい!」
根本さんはこのボランティア講師を引き受けることにした。通いやすいよう学校近くの障がい者施設で働いて生計を立てながら、合唱部の指導に取り組む日々。結果、ボランティアとはいえ、年400時間を子どもたちとの時間に使った。
「周りからは"狂ってる"って言われました」(根本さん)
ボランティア講師としての活動は4年も続き、卒業する生徒も出てきた。すると、「根本さん、私、音大に行きたいです」や、「根本さんみたいに音楽のすばらしさを町の子たちに伝える人になりたい!」という声が出始めた。そこで、根本さんは富士見町で個人指導の教室を開くことにした。
音楽大学への合格にはそれなりの準備が必要だ。ところが、音大を目指したいという生徒のレッスンを始めてみると、自宅には電子ピアノしかないことが分かった。
「音大を目指すなら、生のピアノがあった方がいいです。電子ピアノと本物のピアノは、家電と楽器くらいの違いがありますから」
生徒にそう伝えたが、お金の問題もある。どうやって手に入れるかと考えていた時、偶然にも、ピアノを譲りたい人がいるという話が舞い込んだ。
