「ひとつ大切なことがあります。ルーチェによってフェラーリが変わるわけではありません。私たちはフェラーリにしか作れないEVをラインナップすることで、顧客にこれまでにない選択肢を用意しました。つまり、ルーチェはフェラーリに新しい価値を追加する存在なのです」
車両に使われるパーツのおよそ95%を新設計したとされるルーチェがフェラーリにとってまったく新しい製品であることは事実だ。それは歴史的なできごとではあるけれど、エンジンを積まないモデルが誕生したことでフェラーリ自身が永遠に変わってしまうわけではない。
むしろ「ドライビングを通じて顧客に感動を与え、運転席から降り立つときに思わず笑顔を浮かべてしまうクルマ作り」というフェラーリの伝統をEVでも守り抜いた点にこそルーチェの真の価値はある。ヴィーニャCEOがこのとき主張したかったのは、おおむねこのような内容だったはずだ。
EV化でも変わらぬハンドリングの実現
この目標を達成するためフェラーリは一切の妥協を排した。そして、そうした努力の多くは、車重が重くなりがちなEVで、いかにしてハンドリングが軽快で一体感の強いスポーツカーを生み出すかという点に注がれたといって間違いない。
その代表的なものが4輪を4基の独立したモーターで駆動する4モーター方式である。
駆動力を左右輪で個別に制御できると、ステアリングを切らなくてもクルマが自ら曲がろうとする力を発生できる。これをトルクベクタリングというが、エンジンを1基だけしか積まない従来の自動車では積極的に左右の駆動力に差をつけることが難しく、もっぱら制動力(つまりブレーキ)で制御するブレーキ・トルクベクタリングが採用されてきた。
この場合、トルクベクタリングを行えば行うほど車速が低下する恐れがあるほか、酷使されたブレーキの摩耗を早めることにもつながるため、その動作には一定の制限がかけられることが多かった。
