依頼を受けた法医解剖医は解剖実施日を調整したあと、その日程を解剖助手となる法医学教室のスタッフ数名に一斉メールを送ります。解剖は皮膚の表面から臓器の一つひとつまで、丹念に検証していく大作業ですから、助手なしでは非常に大変です。解剖には2〜4人ほどの助手が必要ですが、誰でもいいわけではなく、解剖技術職員(解剖技術者)、大学医学部教員、大学院生など、人体解剖の知識をもち、解剖を実施するための技術を習得している人でないと助手を務めることができません。ちなみに、私の場合は日本に留学中のインドネシア出身の大学院生(医師)に大いに助けられています。
解剖当日、法医解剖医と解剖助手のメンバーは、死体到着予定時間の30分前には解剖室のある建物へと向かい、死体を検査するCT装置に電源を入れたり器具の確認をしたりして、準備を整えます。異状死体の場合、人体を解剖する前に画像診断装置(CT)を用いて死因を探る「オートプシー・イメージング(Autopsy imaging;Ai)」が非常に役立ちます。この機械で死体を撮影すると、どこに死因の疑いがあるか、解剖でどこを重点的に調べればいいのかがあらかじめ把握できるからです。
このように、私たち解剖チームは3〜5人で稼働しますが、警察側の関係者はさらに多く、常時7〜8人が司法解剖にかかわっています。その内訳は検視官、所轄署の担当刑事が各1人、そして所轄署の署員が5〜6人となります。以上が解剖前の流れです。
解剖室ではなにが起きているのか
死体は、所轄署の署員3〜4名ほどの手によって法医解剖医のいる解剖室に搬入されてきます。作業を分担し、CT撮影とヒアリングを同時に行います。まず、解剖助手が死体のCT撮影を行い、その間に法医解剖医は警察から事件概要の聴取、つまりは死体の発見時の状況などを聞き取ります。
ここからは、ある年の6月に発見された異状死体をケーススタディとして解剖の流れを追っていきましょう。死体となって発見されたのは、山奥にある一軒家で、玄関で倒れたまま亡くなっていた独居の高齢男性でした。大きな外傷は見当たらないが、死因がどうにも不明であったため、司法解剖に回ってきたのです。
