言い換えれば、日本の教科書はナポレオンをフランス史の人物としてだけでなく、ヨーロッパ史・世界史の中で整理しているのです。
この描き方は、人物としての印象はやや薄くなる一方で、「この人が何をした結果、社会がどう変わったのか」が非常によくわかるという特徴があります。
受験で世界史を勉強した人が、「ナポレオンは各国のナショナリズムに影響を与えた」「ウィーン体制の前提をつくった」といった形で記憶しているのは、まさにこの日本の教科書的な整理の仕方によるものかもしれません。
フランスの教科書のナポレオン
一方で、フランスの教科書を読むと、ナポレオンはもっと生身の人物として立ち上がってきます。そこでは彼の生涯や軍隊との関係、宮廷での振る舞い、政治家としての手腕などが、より具体的に描かれています。
日本の教科書が「歴史の流れ」の中にナポレオンを置くのに対し、フランスの教科書は「ナポレオンという人物」を通して時代を見せようとしている印象です。
しかも、その評価は単純な英雄礼賛ではありません。フランス革命後の混乱を収拾し、国家を再統合したこと、ナポレオン法典の制定、教育制度や官僚制度の整備などは高く評価されます。フランスにとって彼は、たしかに近代国家の基盤を築いた「誇りある偉人」でもあるのです。
しかし同時に、皇帝として権力を集中させたこと、対外戦争を拡大させたこと、男女不平等を制度化したこと、さらには奴隷制の復活といった暗い側面にも目が向けられています。つまりフランスの教科書は、「自国の英雄」として詳しく描きながらも、その功罪を切り分けて考えようとしているのです。
