2000点以上の展示物の中に、作者であるトーベ・ヤンソンの人生がにじんでいます。戦争を背景に平和な世界を描こうとした最初期の作品がある一方で、世界的な人気を得てからは「もうムーミンが憎い」と思うほど追い詰められた時期の苦悩も見えます。
転機になったのが、女性のパートナー、トゥーリッキ・ピエティラさんとの出会いです。同性愛が違法だった時代に、公然とパートナー関係を築き、島で共に暮らし、仕事も支え合った。そんな背景を知ってから作品を見ると、ムーミンの世界に漂う自由さと孤独の意味が、少し違って見えてきます。
最後の作品「ムーミン谷の十一月」では、ムーミン自身がほとんど登場しません。それでも谷の仲間たちが、それぞれの不安を抱えながら冬を越えていく。ヤンソンが自分自身を重ねながら描き続けた物語の、静かな幕引きでした。
日本でも誰もがどこかで触れたことのある物語が、こんなに深いものだったとは。ムーミンが時代を超えて読まれ続けている理由が、展示を見て初めて腑に落ちました。
ヤンソンがこの美術館をヘルシンキではなくタンペレに寄贈した理由は諸説あるようですが、華やかな首都より、赤レンガの街の素朴さが作品に合っていたのかもしれません。
静かなのに密度が濃い
タンペレは、ヘルシンキの「ついで」に訪れる街ではありません。この街を目的地にして、サウナで汗をかき、ムーミン美術館で自分の内側を少し掘り下げ、かつての工業都市の骨太な空気の中を歩く。その一連の体験が、セットになって意味を持ちます。
静かなのに密度が濃い。そういう旅が、もっと必要とされている気がします。
