「諭旨解雇に近い形だが、情状酌量で降格処分とする。来月付で、資材倉庫の在庫管理担当へ異動だ。……営業部に戻ることは、もうないと思ってくれ」
出世コースからの完全な脱落。そして、大幅な減給。事実上の追放。家族を養い、住宅ローンを抱える46歳の男に、組織は「戦犯」の烙印を押して切り捨てた。
色褪せる「頼れる父」
その夜、リビングでの空気は鉛のように重かった。
「……倉庫への異動?給料も3割カット?」。
妻の声が震えている。
「ごめん。でも、会社には残れたから。なんとか生活は守るから……」
「あなた……」
そこに、大学合格が決まったばかりの娘が帰ってきた。重苦しい空気を感じ取る。
「パパ?どうしたの?」
佐藤は娘の顔をまともに見られなかった。入学金はなんとか払えるだろう。だが、住宅ローンの借り換えや、老後の計画はすべて白紙だ。何より、これまで娘に誇ってきた「最前線で働くパパ」は、もういない。
「パパ、なんか小さくなったね」
その無邪気な一言が、どんな罵倒よりも佐藤の心をえぐった。妻は通帳を開いたまま、深くため息をついた。その背中は、怒りよりもあきらめに支配されていた。娘は軽蔑の目を向けることもなく、ただ気まずそうに視線を逸らし「……パパ、ご飯冷めるよ」とだけ言った。
罵倒されるほうがマシだった。築き上げてきた「頼れる父」の像は、音を立てて崩れるのではなく、静かに、そして確実に色褪せていった。
翌月から、容赦ない現実が襲ってきた。住宅ローンのボーナス払い月。会社の業績悪化と自身の処分により、ボーナスは支給されなかった。毎月の給与も手取りで十数万円下がり、生活防衛のために自家用車を手放さざるを得なかった。
「マイホームだけは守る」。そう決意したが、それは「この会社にしがみつくしかない」という鎖でもあった。
