「あのメールをクリックした瞬間からさかのぼり、記録が残っているすべての操作ログと通信履歴を精査させてもらいます。あなたが気づかないうちに、もっと前から攻撃者の『踏み台』にされていなかったか、あるいは、過去の別の規約違反がこの侵入を招いたのではないか……」
「通信ログ、ブラウザのキャッシュ、削除済みのメッセージを含め、あなたの全活動をデータで洗い出し、会社に対する『裏切り』や『隠蔽』がないことを証明しない限り、調査は終われません。調査に同意いただけますね?」
確かにこれは会社の持ち物だ。だが、3年間の業務上の試行錯誤、顧客との泥臭いやり取り……それらすべての「思考の痕跡」が巨大なモニターに映し出され、見知らぬ専門家たちに解剖されていく。
「1カ月前の深夜、なぜこの海外サイトにアクセスしたんですか?」
「なぜこのファイルだけ、報告前に削除されているんですか?」
事故とは直接関係のない、過去の些細な「油断」や「仕事のクセ」までが、あたかも重大な犯罪の証拠であるかのように問い詰められる。法的なプライバシーなどない。あるのは、1人の人間としての尊厳を、指紋1つ残さず拭き取られていくような、逃げ場のない屈辱感だけだった。
壁越しには、阿鼻叫喚の怒鳴り声が聞こえてくる。
「帝国自動車の担当者からまた着信だ!『ライン1分止まるごとに、数百万単位の損害だ、どう責任取るんだ』って怒鳴られたぞ!」
「納期回答、まだ出せないのか!向こうは代替ラインの検討に入ってる。このままじゃ今回の損害どころか、来期以降の全取引を解除されるぞ!」
「社長は今朝から謝罪に行きっぱなしだ。まだ門前払いらしいぞ……」
佐藤にとっての最大の罰は、自分が壊した日常の断末魔を、何もできずに聞き続けることだった。
資材倉庫へ配置転換
事件から5日目の金曜日。佐藤に対する処分は、「降格および、地方物流センターへの配置転換」だった。会議室で、人事部長が無表情に告げる。
「本来であれば損害賠償を請求したいところだが、個の過失として法的に全額を負わせることはできない。しかし、会社の信用失墜に対する君の管理責任は極めて重い」
書類が目の前に滑らされた。
